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カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
前の続き。
次は社宅あげたい(笑)
次は社宅あげたい(笑)
色々な意味で目立つ四人組で、「雲と太陽」「紅と青」の会話を交わした翌日。
海堂瑠璃は、昨日小沢晴香と約束した場所…『映画研究同好会』の部室がある校舎B棟裏に向かっていた。
待ち合わせ時間を過ぎていることもあるが…それ以上に感情の高ぶりが瑠璃の足を速めていた。
昨日の時点で『映画研究同好会』正確な部室の場所を聞いていないのは自分のケアレスミスだった。
しかしそのミスでこんなにも不愉快な思いをするとは思っていなかった。
大学に入学して四年目になるが目的地であるプレハブの建物に関心を向けたことは無い。
唯一、籍を置いている合気道部は道場での活動がメインでここに来ることはなく、知らないのは当然といってもいい。
瑠璃は馴れ合いが極端似嫌いな上に用事がないのにうろうろするほど暇ではない。
その場所は「大学側がサークル活動や部活動を行う拠点として学生に貸し出している場所」というデータさえあれば十分だった。
どこに誰が居てどんなサークルに貸し出して居るかなんて瑠璃にはどうでもよかった。
今日が終われば必要なくなる『映画研究同好会』の場所を聞くために向かった学生課が…このイライラの発端だった。
本人に問いたださなければ気が済まないと思っていた怒りは…徐々に収まってきた
いや、治まってはいないのだが、感情を露わにして殴りこむように入るのはプライドが許さなかった。
目的の場所、『映画研究同好会』と書かれたドア前で…瑠璃は立ち止まった。
『映画研究同好会』という文字を見たのは今日だけで二度目。
ついさっき見た…『映画研究同好会』名簿。
部室の場所と数人の名前が記載されていたそれには斎藤八雲も小沢晴香の名前もある。
そして…見覚えのある文字の羅列があった。
海堂瑠璃。
そこにある筈の無い、貸した覚えのない、自分の名前がそこにあた。
大学広しとは言え、ここまで『海』と『青』を強調させる名前の人物が他に居ると考えるのは、楽観的過ぎる。
残念ながら、そこまでお気楽な性格ではない。
一人を除いて、ほぼ同じ筆跡だったのが…確信に変わった。
たぶん、この一番上の人物が勝手にしたのだと…
「入るなら、さっさと入ってくれ。挙動不審で訴えるぞ」
「!?」
瑠璃の回想を打ち消したのは男性のそんな声だった。
驚いたが…目の前のドアは開いていない。
「もう!そんな言い方したら、失礼でしょ!」
声の主…たぶん斎藤八雲と小沢晴香の会話のやり取りが、先日運び込まれた晴香の部屋でのやり取りとまったく同じで、溜め息が出た。
しかしなぜわかったのか、疑問は残る。
そんなに大きな声を出したつもりも、うるさい足音を立てたつもりも無いない。
「ごめんね。入って、瑠璃。」
ドアが開いて、困ったように眉を下げた晴香が姿を見せた。昨日と同じで、紅い石のネックレスを身に着けている。
部屋の奥にはパイプ椅子に踏ん反り返り、眠そうな顔でこちらを見ている八雲の姿があった。
晴香に会釈をして…瑠璃は部室に入った。
……部室というより、八雲の家に訪問しているような感覚を覚えたのは、晴香の態度からだろうか…
「君の時計は一体どれだけの時差があるんだ?」
「八雲君。いきなりそれはないでしょう?」
「時間を守るのは礼儀だろう。」
「授業が長引いたり、いろいろあるんだから。」
学校まで来て、懲りずに夫婦漫才か…
一体、私にどうしろと……
瑠璃はそう思いながら、二人のやり取りを遮るように声をかけた。
「…約束の時間に遅れたのは事実だから。ごめん」
そう言って…本来の目的を果たそうと晴香に向き直った。
「パジャマ、ありがとう。ちゃんと洗濯してあるから。」
紙袋を一つ、晴香に渡し、もうひとつを机に置いた。
「瑠璃?…これは?」
机に置かれた紙袋には洋菓子店のロゴが入っていた。
「これ…あのケーキ屋さんの?」
それは倒れている瑠璃を見つけた日に、八雲と二人で行こうと言っていた店だった。
お洒落な雰囲気と可愛らしいスイーツで、瞬く間に女子の間で話題になったが…。
「わざわざ、買って来てくれたの?」
「…手ぶらで来るほど、礼儀を知らない訳じゃない。いろいろ世話になったしね。ありがとう」
晴香にそう言って、瑠璃は踵を返した。
見えたドアには、映画のポスターが所狭しと貼られているが、その一点を思わず凝視した。
「ドアスコープだ。君の不審な行動は、そこからすべて筒抜けだった。」
ドアに開いた拳大の穴に釘付けになった瑠璃の胸中を見透かしたような八雲の声に、大袈裟に溜め息をついた。
「…………………。」
八雲とは話をしたくなかった。さっきの怒りが再発しそうだったから…だ。
先ほどのからくりは分かったが…威張ることでもない。
「ただの穴で、よくそこまで自慢話が出来るな。」
「事実を説明しただけだ。」
「ならば、私も事実をひとつ。」
瑠璃はそう言って…息を吸いこんだ。
「私は自分の名前を安売りした覚えはない。勝手に使うな。」
「え?」
驚の表情を浮かべた晴香を横目に、怪訝そうに左眉を器用に吊り上げた八雲を見た。
睨まれているようにもみえるが、八雲は意に介さずといったように欠伸をした。
「…つまり、君はパンドラの箱を開けてしまった訳だな。」
がりがりと頭を掻き毟る八雲の姿に苛立ちが更に募った。
「不愉快だ。消させてもらう。」
立ったままの瑠璃と、彼女の怒りを気にも止めない八雲に挟まれ、第三者の晴香が一番困惑していた。
「え?え?…何のこと?」
晴香の困惑に八雲はようやく重い口を開いた。
「部室を借りるときに他人に無関心な連中の名前を借りたんだよ。その中に彼女の名前もあったそれだけだ。」
「……………………。」
八雲が面倒臭そうに答えたが瑠璃にはその言葉がずしりと胸にのしかかった。
怒りで熱を持った頭が一気に冷えていく。
「それだけって…そんな言い方ないでしょう?」
「『私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律』第九十一条二。【届け出等違反の罪】に値する行為だ。」
瑠璃は用意していた反論を口にした、伊達に法学部に在籍しているわけではない。
ぽかんっと…している晴香を置いて、二人の間で話が進んでいた。
「四年間、気付かなかった君が言うセリフではないな。今日がなければそのまま卒業していただろう。」
そう言いながら、八雲は瑠璃に視線を向けた。
寝ぼけ眼でも鮮やかな紅だとわかる左目に射抜かれ、言葉が出ない。
「反論があるなら聞くが?」
「…時間の無駄だ。」
痛い所を突かれ、無反応を装うことで精一杯だった。
八雲の言うことは…悔しいが正論だった。
これ以上討論しても、墓穴を掘るだけだ
下手をすれば、自分が犯した罪まで暴露しかねない
ーそれは、私だけが背負うべき業(カルマ)だー
「予定があるから帰る。」
そう言い残して…瑠璃はドアを開けた。
「…待って、瑠璃!」
晴香が慌てて駆け寄って瑠璃の右腕を掴んだのと、八雲が口を開いたのは、ほぼ同時だった。
「…悪かったな。」
「え?」
「………………。」
素頓狂な声の晴香と、瑠璃が二人揃って振り返ると、八雲が気まずそうに髪の毛を掻き毟っていた。
「今の言葉は、謝罪か?」
「それは、これが礼か?というのと同じレベルの質問だ。」
あくびをして…本を手にとって椅子ごと背を向けた八雲に、晴香は内心苦笑するしか無かった。
瑠璃が外へ出たのに続いて晴香も続いた。
「ごめんね、瑠璃。本当に類い稀な捻くれ者なの。」
だけど、本当に優しいの。八雲君は。
晴香で呟いた言葉に小さく頷いて、 軽く手を振った。
「それじゃあね。」
「うん。ケーキありがとう!」
「おい、携帯が鳴ってるぞ。」
部屋の中から八雲のそんな声が聞こえた。
「あ、うん!」
「またね。」
と…またの再会を約束するかのような言葉を残して…晴香はドアの中に消えていった。
開いたドアの向こうから紅い瞳とぶつかった。
がちゃりっと…ドアが閉まった。
「あ、今日バイトお休みになったって。」
そんな、会話と紅から逃げるように視線をそらせた。
不快でしかない筈の晴れた空の青と、白い雲のコントラストが綺麗だと思ったのは、きっと、気の迷いだ……。
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