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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月07日 (Tue)
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2013年12月01日 (Sun)
いやぁ…すっかりご無沙汰です。
ネット上ではほぼ死滅しておりますが、生きておりますよー。


で、天探の新刊出ましたね!

いろいろ叫びたいことがありますが…SSを一つ投下。



新刊のネタバレ含みますので未読の方はストッププリーズ。


っというか、新刊読まないとなんのことやらだと思います(苦笑)
時事ネタ絡みで、本当は天探お仲間の凪さんに送りつけようと思ってたのですが…
ネタ自体が微妙になってきたのでサイトにUP。

久しぶりですね(苦笑)
そして都合のいいように解釈しておりますので注意。
本家情報が少なすぎる…OTZ




星に願いを


彼女が、眠りについてから…談笑をしなくなった。
それは皆が思っていることだと思う。
食事の後のなんとなくの雑談。
テレビのニュースや天気予報についての感想。
どうでもいい日常の一コマが…、抜け落ちている。
この家の笑顔の真ん中には彼女が居たんだと思い知らされる。
地下に続く階段を下りながら…そんな事を考えた。
この季節になると、朝夕は肌寒い。
室内にはにつかわしくない、ダウンコートを着て地下にたどり着いた。
といっても、つい数分前まで眠って居た場所に帰ってきただけのことだった。
モニタリングルームに誰もいないのは出て行った時から変わっていない。
むしろ、今からすることを考えれば、人がいてもらっては困る。
そんなことを考えながら電子ロックを解除して低温に保たれた部屋に足を踏み入れる。
そしてそのまま、迷わず彼女が眠る場所へ足を向けた。
スイッチを押して、横たわるコクーンの蓋が開く。

「おはよう、志乃。」
そう声をかけて、そっと、こめかみに触れた。
銃創の痕がそこにしっかり残っているのが、指先の感覚でわかる。
 …綺麗なその顔に似つかわしくないその傷跡、奇しくも同じ右側の額。
ヒヤリとした手を握ると、彼女の方に体温が吸われて行くようだった。 
それでもいい、それで彼女が起きてくれるのなら…なんでもする。

 『彼女を人だと思うなら、楽にしてやったらどうだ?』
不意に、その言葉が脳裏をよぎった。
的を射ている彼の言葉は、こうやって事あるごとに脳裏に蘇ってくる。
冗談じゃない。
今からする行為は、彼の台詞へのささやかな反発かもしれない。
コクーンの中を見渡すが、志乃とつながっているような機械は見当たらない。
背中と膝裏に腕を差し込んで、そっと彼女を抱き上げた。
軽く冷たい身体に…ぞっとしてしまった。
本当に生きているのかと思うほどに冷たく、軽かった。
「志乃…。」
そっとその名前を呼んで…ぎゅっと抱きしめた。
しばらく抱きしめていたい衝動に駆られたが、今は時間との勝負だった。
空っぽになったコクーン。
何か警報のようなものが鳴るかと思ったが、なにも無かった。
こうなったらもう計画実行だ。 咎められてもかまわない。
こうするのは、自己満足でしかないのも分かっている…。
志乃を抱きしめたまま、その部屋を出た。
静かに、でも急いで階段を上がる。
身体は寒いが、心拍数だけはどんどん上がっていく。
地下から地上へ、そして二階、ほとんど使われていない三階まで一気に駆け上がる。
あらかじめ目星をつけていた部屋に入りそこでようやく、深呼吸をした。
腕の中の彼女の顔を覗き込むと…先ほどと変わらない彼女がそこにいた。
「志乃、アイソン彗星ってのがくるんだってさ。」
何の気なしに…そういえばいま思いついたというように、彼女に話しかける。
その存在を知ったのはニュースを見ていて、たまたまだった。
「周期の関係で、見えるのは一度きりって、テレビで言ってた。」
「一番接近してたら、肉眼で見えるぐらいの明るさになるんだってさ。」
志乃が起きていたら…一緒に見ようと誘っていた。
  『志乃!早起きして、一緒に彗星探そうぜ』 
  『はい。楽しみですね。』
そんな、あったであろうやり取りを簡単に描ける。
  『でも、家から見えるんですかね?肉眼で?』
  『もし、家から見えそうにないなら、見えるところに行こうぜ。連れてってやるよ。』
志乃は天体観測とかアウトドアなイベントからは遠ざかっている
今から、いろんなことを一緒に体験していこうと思っていたのに…。

現実は、こうだ。
後悔に押しつぶされそうになりながら…窓際まで歩いていき、床に腰を下し…志乃も膝の上に座らせる。
 
寒い早朝に暖かいコーヒーでも飲みながら、体を寄せ合って流れ星に何をお願いするかなんて、たわいない会話をする。 
 
その時間が…何より大事だった。
当たり前すぎて、失ってから気付かされるその時間。
だから…。
形だけでもそうしたいというのは完全に自己満足でしかないことは分かっている。
「この部屋からでも十分見えそうだぜ。志乃。」
夜明け前の東のほうを眺めて、そう声をかける。
寒さが身に染みる。
空気だけではなく…布越しに伝わる志乃の体も…冷たく、氷を抱いているかのようだった。
「なぁ、志乃。流れ星に願い事をすると叶うって、よく聞くだろう?」
返事は当然ない、それでも喋り続ける。
「流れ星に三回願い事って、無理だよなぁ。流れるのって、一瞬だし。」
「小さい頃、本気でしてみようと思ったんだけどさ、いつの間にか寝ちまってたんだよな。夏だったから風邪はひかなかったけど。あっちこっち虫に刺されて大変だった。」
「何をお願いしようと思ってたかなんて、忘れちまったけど…。」
言葉を切って…彼女の顔を見下ろす。
「志乃だったら…何をお願いするんだ?」
帰ってくるのは沈黙だけ。
ははっと…乾いた笑い声が聞こえてきた。
自分の声だと思えないほどかすれた声。
流れ星に願いをすると叶うなんて言われている。
そんな現実味のない言い伝えのような迷信を持ち出す自分に笑ってしまった。
願い事なんて一つしかない。
「志乃…。起きてくれよ…。」
言葉とともに、その体をきつく抱きしめる。
それだけ。
それが全て。
それが叶うのなら、なんにでも縋る。
「志乃…。」
自分でも意識しないうちに、頬に涙が伝った。
泣いたところで志乃が目を覚ますわけじゃない。
そんなことは百も承知だ。でも、涙が出るのは…理屈じゃない。
「志乃っ…」
ぐっと唇をかんで涙をこらえる。
ドラマなんかではこういうシーンで奇跡的に目覚めるなんて、よくあるパターン。
現実は、そんなに甘くはない…。
「今日はまだ、見えそうにねぇんだけどさ…また来ようぜ。」
鼻をすすり…少し目をこすって…そう声をかけた。
自分の声がまだ少し震えていたが、深呼吸をして、息を整える。
「…な。志乃。」
白み始めてきた空をもう一度見てから…立ち上がった。


「朝からデートを楽しんだみたいだね。」
人を小ばかにしたような声が聞こえてきて…招かれざる客が来たとわかった。
普段なら…腹が立つところだが…今回はそう言うわけにはいかなかった。
冷えた身体を温めるためにキッチンでコーヒーを飲んでいた所に彼はやってきた。
「なんのことだ?」
しらばっくれてみたものの、彼には通用していないのは一目でわかった。
目が笑っていない。
彼は、志乃をコクーンから出したことを知っている。
「君にしては正しい判断だと思うよ。あのままあの中で生き長らえるより、人間として死なせてあげたほうが彼女のためだ。」
「…だから…何のことだ?」
「現代の眠れる森の美女は王子様が迎えに来ても起きなかったみたいだね。」
何が楽しいのか、にやにやと薄ら笑いを浮かべている。
こいつと話をしていると…イラつく。
「あぁ。そうか、眠り姫は100年眠ったんだっけか…。100年か…もし目覚めても、彼女が知っている人間は誰もいないだろうねぇ」
「うるせぇ。志乃は眼を覚ますって言ってんだろうが!」
「それは君の希望的観測に過ぎないよ。現実を見たらどうだい?」
「ちょっと、朝からなんなの!?」
ヒステリックに聞こえてきた声に…とりあえず矛を収めた…。
これ以上この秘密を公にするのは…憚られた。
「なんでもねぇよ。」
そう言い残して…キッチンを出た。






「昨年9月に発見されたアイソン彗星は日本時間の29日未明、太陽に最接近した際に崩壊し、ほとんど蒸発したとみられることがNASAの発表でわかりました。」
夕方、聞こえてきたニュース。


一瞬、志乃の笑顔が浮かんできて…光とともに消えた。
気が付けば…指先が震えていた…。



END
本当は、ほのぼのアイソン彗星観測の予定だったのですが…

周知のとおり、彗星さんが消えてしまわれてたので…悲恋感たっぷりなものになってしまった(苦笑)
悲恋ならもっとがっつり悲恋っぽく書きたたかったけど…なかなか難しいものですな。

最後のは願う星すらなくなってしまったショックが伝われば…。
黒野のキャラもコクーンの内装もよくわかんないので適当に。

本当は、連れ出した時点で志乃ちゃん起きてほしいんですが…どうなることやら。


お付き合いいただきありがとうございました。



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