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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月20日 (Mon)
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2011年02月13日 (Sun)

久々、マリンスノウです。

いえ、派生キャラたちばかりオリジブログのほうでワイワイやっているので(親ばか)
こそろそろこ、こっちも…と思いまして。



4.命の代償1


4からはまた色々巻き込まれていきます(笑)






重くなる瞼の間から覗き見える、霞が掛かったようにぼやけた視界。

少しずつ遠退いてゆく意識。

噎せ返るような血のにおい。

無造作に散らばった黒髪。


長年住み慣れた自宅の浴室とは思えない、異様な光景。
その中で彼女の命の灯は、今にも消えそうに心細く揺れていた。


もう、生きる為に足掻く力は残っていない

いや、違う

もう、生きていたくない……


最後に見る景色の中で、一際目に焼き付いた、色。
浴槽から溢れ出た水とともに床まで流れている、私と正反対の…色…。

「(……赤…だ……)」

私の青い瞳に映る、私の赤い血。
両親も、突然の最期を迎えた時に流したかも知れない、人間(ひと)である証の色。

ああ、私は人間、なんだ…

魔女でも化け物でもない、ただの人間なんだ

人間として…死ぬことが出来るんだ……

左手首が、熱い。
痛みはとうに通り越し、痺れるような感覚しか感じない。
大量に飲んだ薬も効を奏したのかも知れない。

この熱さを感じなくなった瞬間(とき)、私は死ぬのだろうか
生きる苦しみと人を苦しめた罪の重さから…解放されるのだろうか

表情の変化さえままならない状態で、自嘲の笑みがふっ…と、口元に浮かんだ気がした。

結局私は、自分が苦しみから逃れる為に死ぬのか
たとえそれが、一時の逃避に過ぎず、死後も枷となって自由を奪われるとしても

それでも

私が存在する限り、呪縛に巻き込まれる人を出したくなかった
この世をさ迷う死者の姿は視えても、想像すらつかない死後の世界に逝くことを選んだ

もしも天国と地獄があるのなら…両親と同じ場所ではなく、一筋の光明さえ射さない地獄へと案内してほしい
地獄にすら行けないのなら、すべての罪を背負い、未来永劫、闇の中を漂い続けることになるのだろうか

ーそれなら、それでいいー

安堵にも近い、不思議と穏やかな気持ちで、目を閉じた。
このまま、二度と開けるつもりのない瞼を……。


「……瑠璃っ!!」

足音と悲鳴が、暗闇の遥か遠くから聞こえた。
幻聴かと思った次の瞬間、浴槽に突っ伏していた身体が抱き起こされた。

「瑠璃っ!お願い、起きて!」

………誰?

「死なないで!目を開けてっ!」

…こんな私に、まだ生きろと言うのか…?

「息はある。早く救急車を!」

熱い筈の手首を温かく優しい手が包み込み、上腕に何かがきつく食い込む感覚が、僅かに伝わってきた。

「毛布か何か無いか?とにかく止血と体温の保持を!」


やめて

生かそうとしないで

私は、このまま地獄に堕ちる

私がそう望んだんだ

だから、この手を離して

もう、終わらせたいんだ


「ごめんね、瑠璃。ごめんっ…!」


耳鳴りが煩い中でも聞こえてきた、嗚咽混じりの声。
ポタポタと顔に掛かる温かい液体。
まさかという猜疑心は一片も残さずに払拭され、声の主を確信した。

………泣かないで
貴女のせいじゃない
すべては私のせいなんだ
貴女を苦しめたのも、私だ
だから…

「…瑠璃!?」

渾身の力を込めて、右手を伸ばした。
閉じていた瞼をどうにかこじ開け、ぼんやりとした輪郭から頬の位置に触れた。
感覚は殆ど無いけれど、相手が私の手をしっかりと握り返してくれたのは、わかった。
瞳から溢れ出した液体が血で汚れた右手を伝い、曲線を描いて流れていく幻想まで見えた。
霞んだ視界がモノクロームに変わり、貴女の顔も綺麗な髪の色も見えない(わからない)。
繰り返し、私に呼び掛ける声も聞こえない。

だけど、わかる
だって、私と貴女は初めての…………

「…な、くな…」

貴女は、何も悪くない
私の為にそんなに綺麗な涙を流さないで

「…ご、め…。ーーー。」

言葉にならなかった謝罪。
呼べなかった名前。
拭えなかった涙。
血で汚してしまった笑顔。

「瑠璃ーーーっ!!!」

意識が闇に堕ちる寸前に聞こえた、泣き叫ぶ声。
哀しみに濡れ、静かだが次元を大きく揺るがすような、心の底からの悲鳴。

…ああ、父さん、母さん
やっぱり、私は魔女だ
二人の命だけじゃない

夕日のように明るくて優しい、あの子の笑顔も……奪った……




不快な音が鳴り響き、過去の記憶から現在の意識へと引き戻された。
手探りで目覚ましを止め、寝床にしているロフトから、見慣れた低い天井を眺める。
心臓がドクドクと脈打ち、水の中から浮上したように息が荒い。
額に手をやると、汗を含んで湿った前髪が指に絡んで、欝陶しげに振り払った。

「………。」

生々しく残る左手首の傷痕を眺め、声にならない声で、夢の中に出て来た女性の名前を呟いた。

犯した罪を忘れた訳じゃない
…忘れた日など、一日も無い

珍しく定刻まで眠ったが、長い悪夢の再現で、心身ともにぐったりと疲れていた。頭が痛い。
だが日常の義務は果たさなければならない。
大きく溜め息をついて、ゆっくりと重い身体を起こした。



『4.命の代償1』



午前中の講義の終了を告げるチャイムが鳴った。
人に寄っては本日の学業からの解放の合図であり、人に寄っては午後の講義までの休養の合図の音である。
チャイムが鳴る前から、ざわつきは聞こえていたが、チャイムが鳴った後のざわめきは更に大きくなった。
「(騒々しい…)」
海堂瑠璃は周りの喧騒に小さく溜め息をつきながら、テキストをまとめた。
「?」
荷物を鞄に入れると同時に、携帯電話が着信を知らせる光を放っているのが目に留まった。
「(誰だ?)」
事務のアルバイトをしている会社からか。
それとも、家庭教師をしている教え子からの質問か。
学校からの業務連絡…。
はたまた非通知……。

「(……もしくは、あいつ…か……)」

そのくらいしか瑠璃のメールアドレスを知っている人間は居ない。
入学以来、遊び好きな連中に何度か声を掛けられたが、すべて断った。数合わせの人間関係に付き合うつもりは無い。
祖父との連絡のやり取りはパソコンのメールや家の電話からの方が速いし、あちらはまだ明け方の時間帯の筈だ。
そんなことを思いながら、瑠璃は二つ折りの携帯電話を取り出し、フラップを開いた。

画面に並んでいるのはアルファベット…と、訳のわからない文字。
文字化けをしていると気付くのに、最初はしばらく掛かった。
無理もない。これは日本の携帯で、日本語で使われることが大前提だ。フランス語で使われる特殊な文字に対応していない。
「…またか。」
差出人はS.Salan…フランスの大学からやってきた特待生。
あちらの携帯はフランス製だから、さっきの道理で言えば、当然フランス語で送ってくる。
内容は……多少の文字化けがあっても理解出来た。
今日予定していたフランス語の勉強の時間が遅くなるというメール。
「……………………。」
またしても、溜め息が漏れた。
溜め息をつくと幸せが逃げるというが、つかなければ身体の中の澱が溜まる一方だ。
日本語ばかりの環境でフランス語を忘れないように、時々話し相手になってほしいと持ち掛けられた勉強会だが…そんなものは口実だ。
何かと理由を作っては…接触してくる。私と関わりを持とうとしてくる。
「(…甘くし過ぎた。)」
言葉は生物だ、使わなければ驚く程の速さで廃れてゆくと、自分に言い聞かせて引き受けたのも…。
雨の日に傘のやり取りなどがあったことも含めて、すべて、だ…。

たまたま祖父がフランス人で、幼少からフランス語と縁が深かった。
雨の日に常備している折り畳み傘を、傘を持っていないあいつに差し出したのも、単なるモラル…だ。
それ以上でもそれ以下でもない。

何も関係ない…

偶然だの必然だのと、運命を騒ぎ立てるのも、馬鹿馬鹿しい

……そう、割り切れなかったのは、甘かった

アドレスを変えてしまおうか…

二度と、係わり合うことの無いように

誰とも、親しくしないで済むように

結局、返信をせずに携帯を閉まった。
彼との勉強が無くなったのなら、夕方からのバイトまで時間がある。
瑠璃は鞄を持って立ち上がった。



休み時間は、廊下や食堂、広場に一気に人が増える。

騒がしい、煩い、暑い
そろそろ、本格的に日傘が必要になる季節だ…

季節の変化に思いを馳せるより、押し寄せる数多の想いに辟易した。
人が多ければ、それだけ想いがあるのは当然だが、自制にも限界というものがある。頭が痛い。

人が多いのは正門へ向かう流れ…。
人が少ないのは裏門へ向かう流れ…。

霊に憑かれて倒れるという失態を犯したばかりの裏門へ行く元気は無かった。
明日は両親の月命日…だが、天気は下り坂らしい。
それに明日は講義がびっしりだ。終わってから買いに行くとなると、かなり遅くなってしまう。
さりとて、登校前に開いている花屋など…瑠璃の周りには無い。
ちゃんと手入れをしてやれば、一日くらいはもつ筈だ…。
瑠璃は朝決めた予定を実行に移し、正門へと歩を進めた。
今日の講義は終了。レポートも提出した。
学生の義務は果たした。


ふっと…何となく視線が動く。
何となく…が勘でなかったら…知り合いの出すオーラを感じたのか…。
どこまでが特異体質で、どこまでが普通なのか…わからない。
『太陽の二人』っと…変な愛称を、例のあいつが付けている片割れの…小沢晴香がそこに居た。
嬉しそうに弾むような足取りで歩いている。

私に言わせるならば、彼女は『桜』の人…だと思う。
桜の花が満開の入学式の日に出会い、桜の花が舞い落ちる風景の中で彼女と…彼女の双子の姉である、綾香の霊と言葉を交わした。

ー再び彩(いろ)を感じるようになってから見た、華やかで儚く切ない桜色の世界と…優しく哀しい姉妹の絆ー

遠目で見ただけだが、頬がほんのりピンクになっているのも…それに拍車を掛けた。
思い出に浸っていることに気がついて…頭を振った。

関係ない…と、背を向けた…。



見られていたとは気がつかない小沢晴香は、【映画研究同好会】の部室に向かっていた。
『彼氏』である斎藤八雲を食事に誘う為である。

付き合っているのなら、特別なことでも何でもない。普通のことだーーなんて、軽い気持ちで言わないでほしい。
類い稀な皮肉屋で、気まぐれな猫のような性格の彼には、一般論は通用しない。
だからこそ逆に、そうやって他人を遮断してしまう彼と、『特別でも何でもないこと』を過ごす時間を共有したい…のだ。

八雲をあの部屋から引っ張り出すことが、最大の難関である。
連れ出してしまえば、ついでだからっと…色々引っ張っていける。

最初が、肝心である。

そして今日は、勝算がある。
食事の割引券があるのだ…しかも、大学近くのお店の、だ。
またとないチャンス。

『学校近くのお店のランチバイキングの割引券があるから、一緒に行かない?デザートの種類が豊富って有名なお店なんだよー。』

たぶん、皮肉の一つ二つ…(で、済めばいいが…)は言われるだろうけど、その時はその時だ

『これから薄着になるって季節に、デザートを一人占めして、後悔するのは君だからな。』

仮にも『彼女』に対して、デリカシーのかけらも無い台詞を告げられるのも…長い付き合いで容易に予想がつく

『後から、あの時、僕が断ったせいだ…とか何とか言われたら、堪らない。仕方ないから、見張り役をしてやるよ。』

それでも、甘党の八雲は空腹を満たす為に重い腰を上げるだろう

八雲の皮肉をぐっと堪えられるのかも、重要な課題だ…というところまでシミュレーションが済んだところで…目的のドアが見えてきた。
晴香はうきうきした気分を隠せないままで…映画研究同好会のドアを開けた。

「やぁ。」
部屋の中から…むあっとした空気が出て来て、全身を覆った。
もう季節は夏に向かっているなぁ…っと感じたが、その原因は気候だけじゃなかった。
「なんだ、君か。」
部屋の主の八雲の反応は想像の範囲内…。
「おう、晴香ちゃん。邪魔してるぜ。」
後藤さんが居た。
なんとなく…暑いのは彼のせい、だろうか…。
「は、晴香ちゃん、こんにちは。」
そして、普段から顔を合わせると、弾かれたように直立不動になる石井さんが…やはり直立不動になって…更に直角に腰を折った。
「こ、こんにちは…」
第一声から…予定が狂った。
むしろこの二人が居る…ということは………。
「……君までトラブルを持ち込んだのか?」
やっぱり、そうか。
だけど、大きな勘違いをされている。
「ちっ…ちがいますっ!」
相変わらずの寝ぼけ眼の…いつ見ても綺麗だと思う、赤い瞳を見据えて…晴香は声を張った。

トラブルが大前提で話されているのが、癪に障った。
それは確かに、八雲に相談事をすることはある。
トラブルを持ち込んだこともある。
それでも…今は一応、恋人なのだ。


一緒に居たいと思ってもいい筈だ

一緒に食事に行きたいと思ってもいい筈だ

それなのに、この扱いはちょっと…いや、かなり嫌…だった…


「…ちょっと、食事に誘おうかと思っただけ!忙しいならいいよ。」
晴香はそう言って…踵を返した。
「は、晴香ちゃん!」
一瞬追いかけようとした石井だが、後藤が襟足を捕まえた。
「仕事中だ、バカ野郎。」
「…うるさいですね…。さっさと行きますよ。」
目を通していた資料のファイルをやや乱暴に閉じて、八雲は立ち上がった。
「お、行く気になったか。」

後藤のその問いには答えずに、八雲はがしがしと頭を掻きながら、部室を後にした。
くるりとこちらに背を向ける直前に見えた…晴香の目が少し潤んでいるのを…八雲は見過ごさなかった。

…あいつの機嫌を早く直さないとな

その呟きは…誰にも聞こえなかった。


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