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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
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2012年04月08日 (Sun)

久々更新。マリンスノウです。

版権はいろいろ浮気しまくりです(苦笑)


4.命の代償3


注)本作品の時系列は『心霊探偵八雲』原作に沿っていますが、社会背景及び法律の描写については、執筆時現在(2012年)に基づいております。
矛盾が生じる部分が出てくるかも知れませんが、ご理解の程をよろしくお願い致します。


晴香が乙女なお話です。

事件は少し休憩ですね。







4.命の代償3



いつも、刑事二人が車を止める場所…
つまり、八雲と刑事二人が通るであろうルートとは逆の方向に…。
何より今は人目を避けるように、小沢晴香は自分の爪先を見つめながら歩いていた。

先程まで弾むような足どりで歩いていた彼女と、今のとぼとぼと歩いている彼女はあまりにも違いすぎる。
誰にも見られていなかったのは、不幸中の幸いだった。

「……はぁあー…。」

意識して…息を吐き出す。
重い重い息。
腹の底から溜まった空気を吐き出すような重い溜め息だった。
全部吐き出してしまえば楽なんだけれど…一向に軽くならない。
気持ちはどんよりと沈んでいて…底無し沼に嵌まったかのように足掻いた分だけ余計にずぶずぶと沈んでいくようだ。

感情がごちゃ混ぜになって、勢いに任せて部室を飛び出してきたけれど…
頭が冷えてくるのに比例して少しの怒りと後悔、悲しみ以外の…別の感情がずしりと双肩にのし掛かってきた。
「はぁ…私って、欲張りなのかなぁ…?」

『なんだ、今頃、気が付いたのか? 』
そう、切り返してくるのが簡単に想像できるけれど…
実際には零れた呟きに応えてくれる相手は居ない 。
それが少し…淋しく感じてしまう。
『君が欲張りでないのなら、誰を欲張りというんだ?』
してやったりと言う表情で皮肉を言う八雲とのやり取りは、こんなにも容易に想像出来るのに…

その人は…傍にいない。

いつも突然にやって来る後藤にまた事件を持ちこまれたようだった。
きっと、先程の態度から考えて強引に部屋から連れ出されている頃だろう。
素直じゃない皮肉屋だけれど……
結局、最後には引き受けてしまうケースの方が多い。
事件を持つ込む方が押しが強くてしつこい…と言うのもあるのだろうが結局のところ、八雲も“不器用でお節介なまでにお人よし”の人種なのだ。

本当に優しいから、困っている人を放っては置けない

死してなお彷迷い続ける魂の悲しみを知っているから、苦悩の表情を見せる。

八雲にしかできないことがあるのはわかっている…

後藤が持ち込むのは八雲にしかできない事…っというのもわかっている。

「…やっぱり、私が欲張りなのかな。」

呟きながら振り返った。
あの八雲が追い掛けて来てくれる…とは思わない。わかり過ぎる程にわかっている。
それでも引き留めてくれることを、心の何処かで期待していたのかも知れない。
だが、視界にはなにも変わらないキャンパスの風景が広がっているだけだ。
風が草木を揺らす音と…昼休の賑わいが僅かに聞えてくる。

「何やってるんだろ…私。」

淡い期待は、予想を外れる事なく掻き消された。
待ち人来ず。

『そんな歩き方をするから前の障害物に気が付かないし、すぐに転ぶんだ。』

そんな、皮肉を言いながらも隣を歩いてくれる人を。

「(…彼女、かぁ。)」

苦笑いを浮かべると、気を取り直すように再び前を向いて、歩き出した。

ようやく八雲と想いが繋がった時の喜びは、今でも鮮明に覚えている。
特別なことなんて望まない。
『彼氏と彼女』『恋人』の呼び名にこだわるつもりも無い…筈だった。

各所に設置されている白いベンチが視界に入り、そちらに歩を進めて、座る。

お財布の中にある割引券の期限を確認する。 もう少しは…大丈夫だ。

仲直りして…一緒に行こうと心に決めて、財布にしまった。

さあっ…と、木の葉を揺らしながら吹いてきた風に身を委ね、目を閉じる。


通い慣れた八雲の隠れ家。
電化製品は冷蔵庫と…あまり役に立っていない扇風機だけ。
板切れのようなテーブルと、錆びて音を立てるパイプ椅子。
寝袋を主とした八雲の僅かな私物。
「…アルコールランプとビーカーで沸かした緑茶を出されたこともあったっけ…」

お世辞にも設備が整っているとは言えないプレハブの一室だが、不思議と居心地が良かった。
最初は事故で死んだ双子の姉のぶんまで『いい子』を演じなくとも、責められなくて済むからだと思っていた。
それがいつの日からか、八雲が居ない部屋は…孤独感と不安を掻き立てる、落ち着かない空気が漂っているように感じるようになっていた。
大学側まで騙して私物化したくせに、斎藤八雲が居て初めて【映画研究同好会】という場所が生まれる。
八雲がいる場所だから、心地いい。
それほどまでに、晴香の中で八雲の存在は大きくなっていた。

「特別なことなんて望まない」
…そんな見栄を張りながら、
「だけどたまには、世の中の恋人達がするようなことに憧れたっていい筈だ」
…なんて、想う程に。

「よし。」
仲直り…という表現は適切では無いけれど、このままでは嫌だ。
何もしないでいるのは、嫌だ。

軽く両手で自分の頬を打ち、ベンチから立ち上がる。
八雲が事件に巻き込まれるのは、心配で本当は嫌だけれど…。
「八雲君なら、大丈夫。」
そう言いながら…立ち上がった。
たしか、部室の冷蔵庫の中が空に近かったはずだ。
あの暑さなら…冷たい飲み物は欠かせない。

『どうして君は、頼んでもいないのに、勝手なことをするんだ。』
そんな声が聞こえて着る気がして…思わず笑みを浮かべた。
「決まってるじゃない。お節介なくらいに八雲君のことが大切だからよ。 」

胸元の赤い石のネックレスが、先程まで高ぶっていた気持ちを鎮めるかのように、晴香の歩調に合わせて、揺れ動いた。




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似た者揃い(苦笑)
血の繋がりが無くとも、それ以上に強い『絆』で寄り添っている人達なんですよね>八雲と彼の周囲の人々。
失ってわかる大切な日常だけど、それでも「今以上」を求めてしまう、乙女心は複雑ですよね。
2012/04/08(Sun)21:41:04 編集
似た者揃いですね(笑)


哀さん

コメントありがとうございます!久々更新です!

おっしゃる通り血のつながりはないけれど、それ以上のつながりがありますよね。
特に八雲は、血のつながりを嫌悪してる節がありますから
それだけが繋がりじゃないと、痛感してるかな。
しかし、乙女心は…複雑ですね。
一緒にいたいけれど、邪魔はしたくない…っと。
邪魔はしたくないと思える晴香は健気だと思います。


【2012/04/10 22:06】
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