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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2025年03月10日 (Mon)
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2010年10月11日 (Mon)

カラダとココロ シリーズ。



実はこうなんじゃないかなぁ……っと。

密かに思っている真志。恋人設定。

若干痛いかつ切ない系(苦笑)

そして…アダルト。もう一歩近付く時。



「志乃は可愛いな」


「そういうのも、いいね。志乃はどんどん綺麗になってくな…」


その言葉を聴くたびに…胸が痛んだ。


あたしは

可愛くなんてない…。

ましてや…綺麗なんて……。

程遠い…のに……。





どうして………




部屋の隅にある安いパイプベッド。
悲鳴をあげるように動くたびにギシリギシリと音を立てる。
カーテン越しに窓から漏れる光はまだ充分明るい。
「…っ…。」
2人分の体重が乗って…ひときわ大きい音が鳴った。
上に男
下に女
お互いの顔が分るぐらいの明るさ…距離。
「さ…な、だ…さん?」
状況が、飲み込めないんだろう…困惑したような志乃の声
「…志乃」
いつもの軽い口調じゃない声に心臓が跳ねた。
「あの…えっと……。」
本気でどうしていいのか分からない志乃は答えを求めるように真田を見上げた。
「嫌なら…拒んで。」
「え?」
「嫌じゃないなら…受け入れて。」
「さなっ…」
言葉より早く、唇がふさがれた。髪を撫でられる。
いつもする、触れるだけのキスじゃなかった。
いつもは触れる程度のキスが多いのだが…。
触れる…というよりは押し付ける。もしくは押さえ込む…っというような口付け。
一瞬にして…身体によく分からないものが走る。背筋がゾクッとする。
「!」
何が起きたのか、理解できないまま触れた。熱い。
「…は…っ…。」
息が漏れる。でも苦しいのは変わらない…。
どうしていいのか分からず、されるがままになる。
体が熱い、全身が熱くなった。初めての深い口付けにだんだん頭が真っ白になる。
「志乃…。」
耳にそう囁かれた。顔は見れない。口は喋れない。心臓だけが煩い。
そのまま首に唇が触れた…そうして熱い手が胸元に触れる。
何をしているのか…分るまで時間がかかった…。
「ぃ…ゃ…っ…。」
二つ目のボタンを外そうとしていた手を無我夢中で掴む。
小さい声だった。それでも…彼には聞こえたようだ。
ぴたりと動きが止まる。
息を呑んだのが…志乃にも分った。
何かに耐えるように…ぐっと奥歯を噛み締めて…。

「…分った。」

そう、声がした。


志乃に被さっていた影が消える。
ギシッと…音がして…ベッドに座った後が見えた。

「さ…な…。」「俺さ、志乃が好きだよ。」
志乃が言おうとする前に…真田は言葉をかぶせた。
「本気で志乃が好きだよ。…だから…志乃が嫌がる事はしない。」
「………。」
「志乃が受け入れてくれるまで、俺は待つから…。」
「そりゃ…いろいろ、辛いけど…。耐える」
志乃が…大事だから。
独り言のようにそう言って…大きく深呼吸した。
「ごめんなさい…」
…自分が悪いのは…自分がよく分かっているつもりだった。
言い訳を言える立場じゃないのも…分っている。
いえるのは謝罪だけ。
「いいんだよ。…だた、知ってて欲しい…な。」
優しく笑って志乃の体を起こし…開けたボタンを止めた。
「俺はいつだって…志乃が欲しい…ってこと。」
同じように…横に志乃を座らせてそう言った。
「ごめんな、いきなり。…ちょっと…我慢できなかった。」
真田は気まずそうに頬を掻く。
「…真田さんは…悪くない…です。」
むしろ…感謝しなくちゃいけない…
「嫌だ」といって…やめてくれた事に対して。気持ちを尊重してくれた事に対して……。
「あたし…は……」
膝の上で…拳を作る…。
「いいんだよ、志乃…落ち着いて。」
その細い肩を抱くように手を添えた。ピクリとっ体が反応した。
「嫌?」
それを見逃さなかった真田はそう問うた。
志乃は頭を振って自ら体を寄せてきた。…それを支える真田。
「あたしも…真田さんが好き。…」
「そっか…よかった。」
「でも……。」
「いいんだよ。…自分を責めるな…志乃を…卑屈にさせたいんじゃ…ないんだ」
安心させるように肩を叩いて…頭のてっぺんにキスをする。
さっきのキスとは違う…優しいキス。
「志乃のペースで…進もう。…な?」
膝の上で握られた手をゆっくり包まれた。
「大丈夫…。」
そうして…その手の力を抜くように…一本ずつ指を開かせていく…。
志乃はぎゅっと目を閉じた。

優しさに甘えてしまう。

でも、

でも…

コレだけは…。

怖い…。


好きなのに不安で…
拒絶される事を考えると苦しくて…
怖い
そんな人じゃないのは…分ってるのに…。
怖くて…怖くて…たまらない。

そう思っている…自分も…嫌だった。

こんなに…優しいのに…。

体の中が不安と恐怖と自己嫌悪と大事に思ってもらってる嬉しさと…
なんだか分らない感情とがでごちゃ混ぜで…爆発しそうだった。

どうしたら…いいんだろう…。


「志乃…。……泣いてるのか?」
手に感じた水気に…真田はそう問うた。
「………」
志乃は声が、出せなかった。声を出せば…それが分るから。
でも何も言わないのも肯定だ…。
「ごめんな…。」
沈痛な声が聞こえてきた。労わるように…涙の落ちた場所へ唇を押し当てた。
「…志乃を…泣かせたかったんじゃ…ないんだ。」
ごめん…っという真田の声を聞きながら…志乃は肩に顔を押し付けた。
「……志乃…。」
小さい嗚咽が漏れる。強く抱きしめたい衝動に駆られるが…律した。
志乃を泣かせているのは自分なのだから…そうする資格はない…。
右手で肩を抱いて…左手で頭を撫でた。




少しの後…
疲れたように笑う志乃が…
どうしようもなく…痛々しかった。

志乃を…卑屈にさせるぐらいなら…。
言わなければよかった…。
もう少し、我慢できればよかった…と思う

もう遅いのは…分っているが…。





手を掴まれた時についた引掻き傷…


これに志乃は気付いていない。それぐらい…無我夢中だったんだろう。

あんなに、強い力で握られたのも初めてだった…。

手の甲についたそれ。

蚯蚓腫れになっているが痛いとは思わなかった。

多分、今は志乃のほうが…ずっと痛い思いをしてる…。


「ごめんな…志乃…。」

そう…呟いて…その傷を舐めた。


少しだけ…沁みた。





理由。

もう1回続きます
「真田さん……。」
「ん?」
「次…お休み取れたら…付き合って欲しい場所があります。」
「いいけど、どしたの?そんな改まって。志乃ちゃんから、愛の告白してくれるとか?」
半ばふざけてそう言った真田。
「ちがいます…。」
「?」
いつもなら、顔を赤くして否定するところが今日は反応が薄い…。それどころか、視線を反らせた。
「志乃?どうしたんだよ。」
「何でもありません。じゃぁ、次のお休みに…」
「おう…。」
そう言って…何事もなかったかのように仕事に戻る志乃。
妙な感じを覚えたが…それがなんなのか…真田には分らなかった…。


志乃の不思議なお願いから数日後に次の予定休みの予定が決まった。


そして当日…。



遅めの昼ご飯を食べた真田は志乃に案内されるがままに、ある場所に向かっていた。


「志乃…。」
「はい?」
「ここ…で、いいんだよな?」
「はい。」
思わず聞いてしまったのは…場違いな気がしたから。そこはホテル…だった。
茶色い壁の高層階のホテル…。
このホテルの裏手で…二人は初めて会った…。
今思えば一目惚れだったんだろう…と、真田は思う。
そんな事を思い出していると志乃が動いた。
「…入るのか?」
「あそこのカフェ、行ってみたかったんです。」
志乃はそういい真田を見上げた。
「カフェ…ね。」
不倫や浮気の調査が殆どで…ホテルと聞くとついそっちを思ってしまう自分が居る。
コレも職業病ってやつか…?
「了解。」
そんなことを思いながら…真田は車椅子を押した。



ここに来た…志乃の意図が分らない。
真田は一人、コーヒーを啜りながら考えた。志乃は、お手洗いに行くといって席を立っている。
出てくるものはそれなりに旨かったが…なにもここじゃなくてもコレぐらいなら食べれる。値段もそれなりにする。
思い出の場所めぐりでもしたかったのか?
それなら最初に会ったときの事でも会話にでそうであるが…それはない。却下。
……俺、嫌われたかなぁ…。
一番認めたくないが…消去法でいくとコレしか残らない。最後に綺麗な思い出を…ってやつか?
アレから…ちょっとギクシャクしてるのは感じていた。志乃は特に…様子が変だった。
多分、俺のせい。
「………………。」
選択肢は二つ。分かれるか。分かれないか。
どうしたいかはいうまでもない。でも志乃が…本当に分かれたいと思っていたら…どうする。
男らしく、潔く身を引けるのか…今までどおり…仕事仲間として付き合えるのか。
そんなの…わかんねぇ。
「失礼します。お客さま、真田様でございますか?」
いきなり…そんな声をかけられて底心驚いた。
いつの間にか、ウェイターが横に立って居た。
「そう…だけど…。」
「お連れ様がお部屋でお待ちです」
「え?」
自分でも…間抜けな声だったとは思う。だが、それぐらい意外な言葉だった。
「?…中西様から真田様へ…。」
そう言うと…鍵を渡された。ホテルの名前と…部屋番号が書かれているカードキー。
「…分った。ありがとう。」
それを受け取ってウェイターが去る間も…真田は固まっていた。
頭はフル回転しているが、この状況の…適切な説明が出来なかった。

志乃は一体何がしたいんだ…。

その疑問だけが頭の中を支配していた……。


部屋番号を確認して……なんとなくノックをしてから…鍵を使ってドアを開けた。
窓際に…志乃の姿があった背中が向いている…。屋敷で始めてあったときも…志乃は同じようにして真田を待っていた。
錯覚を起こすが…ここはホテルだ。ダブルベッドが一つと…椅子とテーブルが1セット置いてある。
「志乃。」
声をかけると…志乃はゆっくり振り返った。
「志乃。どういうことだよ。」
カードキーをテーブルの上において…窓際の志乃に近寄る。
「…………。」
「志乃。」
何も言わない志乃に…少し苛立ちを感じながら…ベッドに座った。
「…あたしに、付き合ってくれるって言いました。」
まっすぐに真田を見る志乃。
「……………。」
そう言ったのは事実である。でもこれはないだろう。
「…確かにそう言ったけど、何でホテルなんだよ?」
「真田さんと…ゆっくり話がしたかったんです。2人だけで、誰にも邪魔されないところで…。」
「…それはいいケド、ホテルはただじゃない。それ分ってるか?」
志乃はいまいち金銭感覚が庶民的ではない。まぁ、お嬢様だったのでしょうがないといえばそうなのだが……。
「分かっています。」
目を伏せて…うつむき加減で志乃はそう言った。
「分ってるなら…。」「真田さん!」
そのボリュームが志乃の声で出るとは思わなかった真田は…正直驚いた。
「…一つだけ、わがまま、聞いてください…。」
顔が上がらないまま…言う。
「…………。」
渋い顔をしていた真田だったが…一つ溜息をついて…志乃の頭に手を置いた。
「わがままなら、いくらでも聞くけど。節約しようぜ。」
「?」
「別に、話すだけならその辺のラブホでもいい、わざわざ…大金つぎ込まなくても、話はできるだろ?」
「………………………。」
「で?何話すんだ?」
「怒って…ないんですか?」
「折角のデートなんだぜ?怒るのはいつでもできるだろ。」
真田はそう言うと帽子を脱いで頭をかいた。
「話しよう、志乃がしたい話。」
「……はいっ。」
あぁ、やっと笑った。
今は理由なんてどうでもいいことにする。
この先何が待っていても良い。
志乃が笑うなら…それで良い。




気が付けば…もう日が落ちていた。
「あ~…夕飯、どうする?」
ラブホじゃないのだから休憩のみなんて利用の方法はできないだろう。多分、お泊りコース。
「……………。」
「志乃?」
「あ…はい。」
「…疲れたか?ぼーっとして。」
「いいえ…すみません、何の話でしたか?」
「…夕食の話。」
「ルームサービスをお願いしてます。」
「そっか。」
「……………。」
「志乃?大丈夫か?なんか上の空だぞ。」
「…へ、平気です。」
そんなやり取りが…時間を置いて何度となく繰り返された。
食事中…真田がふざけてもいつものように笑わない。
ふとした瞬間…陰りが見える。
「食欲、ないのか?」
「いいえ。ちゃんと食べてますよ。」
これも…繰り返された会話だった。
窓の外は少しづつ…夕闇に染まっていった……。


しない…っと。決めていた、この部屋に入ったときから。
だから距離を置いていた。横に座る事はしない。触れることもしない。
前みたいな事はしない。
そう、自分に言い聞かせた…。

食後…ベッドに座ってぼんやりテレビを眺めていた。明日は晴れだ。
「真田さん…」
「うぅん?」
首を捻って志乃を見ると…少し、うつむき加減の志乃が居た。
「………。」
「どうした?」
「ごめん…なさい…。」
「?…なんで、謝るんだよ。」
身体ごと…志乃に向き合って…そう問うた。
車椅子の志乃。
ベッドに座って居る真田。
視線は真田のほうが高い。
「…今日、いろいろ振り回して…。」
「別にいいよ、志乃に付き合うって約束だったじゃん。」
「…………。」
「………。」
短い沈黙。
「理由…」
志乃が顔を上げて真田を見た。
「?」
「…この前…拒んだ理由…知りたい…ですか?」
避けていた事だったが…志乃自ら問うてきた。まっすぐに…見つめる。
その瞳は…揺れていた。
ずっと、それを言うためにここに来たのか。上の空だったのは、その事を考えていたのか?その言葉を真田は飲み込んだ。
「…………。聞かせて…くれるのか?」
変わりにそうとだけ聞いた。
「聞いていいなら聞きたい。……俺が怖い?」
「違います…。」
志乃はそういって…1呼吸置いてからカーデガンを脱いだ。
何が…出てくるのかと思ったらその下はキャミソールだった。素肌が見える。
「!」
咄嗟に、見てはいけないと思ったが視線が釘付けになったように…いう事を聞かなかった。

白い肌に…生々しい傷跡があった。肩…腕にも…
傷自体は昔のものだろうが、志乃の身体には不相応な傷。

これが…理由。

「……………。」
何も言えずに…ただそれを見ていた真田だった。
志乃がぎゅぅっと…手を握り締めているのに…気がついた。
「……ごめん。」
それはなんに対しての謝罪なんだろうか。
脚は…動かなかった。その代わり腕が動いた。
腕を掴み…そのまま引っ張る。

抱きしめていた。衝動。腕の中でビクリと震える。

車椅子が…がたんと音を立てて…もとに戻った。

カーデガンが…パサリと落ちた。


「さ…な…」
ベッドに膝を付くようにして…志乃は抱きしめられていた。すとんっと…腰が落ちて真田の脚の間に正座のようになる。
「気付かなくて…ごめん。」
志乃の言葉より先に…真田は言った。言わなければいけなかった。
「…え?」
「…考えれば…分りそうなのに…。気付かなくてごめん。」
ぎゅぅっと…苦しいくらいに抱きしめられた。
「………。」
「…脚の事故の時のだよな。」
こくり…と頷く。
「…傷があるから…嫌だったんだな?」
「だっ…って。」
上手く…言葉が出ない。
「だって?」
「こんな傷…っ…。」
「…。嫌いなのか?この傷。」
目の前にある…細い肩の傷を見る真田。
「こんなあたしでも…好きって…言ってくれて…大事にしてくれて…。」

「いっぱい…いっぱい…抱きしめてくれて…」

「好きだって…言ってくれるのに…」

「幻滅…されそうで…。」

「嫌われ…そうで…」

「気持ち悪がられそうで…。」「もういい!大丈夫だから。」
途切れ途切れ、涙声になりながら…志乃は言った。
その声が…あんまりにも痛々しくて…真田はそう言って志乃の頭を自分に押し付けた。
「…傷があっても…志乃は志乃だ。何も変わらないよ。」
肩口の傷に…ゆっくり唇を寄せた。
「っ!」
ぴくっと…身体が跳ねる。
「まだ、痛い?」
ふるふると…頭を横に振った志乃。
「それに…志乃が頑張って生きてきた証だろ…。」
「…………………。」
「辛い事…乗り越えた証だろ。」
「…さなださんっ…」
服が…引っ張られた。
「大丈夫だよ。」
ぽんぽんっと…あやすように頭を撫でる。腕が背中に回って…ぎゅっと抱きしめてきた。
「俺…その程度に思われてた?傷があったら…志乃のこと嫌いになると思ってた?」
「!違うっ…真田さんは…っ。」
それだけ言うが後は言葉にならなかった嗚咽で…かき消される。
「…そんなこといったら、俺傷だらけだぜ?大丈夫、志乃は…志乃だよ。」
子供のように泣きじゃくっているのでどれぐらい聞こえるかは分らない。
それでも、真田は言葉を紡いだ。
「…真面目で、ちょっと頑固だけど…頑張ってる。責任感がありすぎて…自分の事より人のことが大切で…人のために一生懸命になれる…。優しい志乃だよ。」
「…………。」
「いままでよく、頑張ったな…。」

「これからは…幸せにするから。」

「…一緒に生きていこうか…志乃?」


ぎゅうっと…背中のほうのシャツが引っ張られた。


「ほんとうは…」
擦れた声。
「うん?」
「ずっと誰かにそう言って貰いたかった……。」
見上げてきた志乃の目に…また涙が溜まっていた。

生きている事を…認めて欲しかった。生きてていいんだと…言ってほしかった。
事故の後、腫れ物のように扱う周囲。次第に疎遠になっていった。
それは…父親でさえも。

自分が夢を見るから人が死ぬと思っていた。
自分が夢を見なければ…
いっそ自分が居なければ…誰も死なないですむ。
死の運命を変えられないあたしがいてもなにもならない。
死んでしまいたいと…あの時ママと一緒に逝けたらよかったと何度思ったのか分らない。

生きる価値がないと…思っていた。
人を…煩わせるしことしか出来ない。ましてや人を死に追いやる自分は…生きていてはいけないと…思った。
それでも…死ぬ事は許されなかった。
永遠とも思えるその葛藤。

それは…払拭されたいまでも、まだ根深く心の傷となっている。


「生きてていいんだって……。」

「幸せに…なっていいんだって…っ」

ずっとだれかに…。

一番大事な人に

そう言ってもらいたかった……。


「生きてていいんだよ、志乃。」

優しく、頭を撫でられる

「幸せに…なっていいんだよ。志乃。」

肩の傷跡に…慈しむようにキスをされる。


「さ…なだ、さん。真田さん!さなださんっ!!」


力加減なんて…分らなかった。
ただ、ずっとここに居てほしかった。だから抱きしめた。

子供のように…泣きじゃくった。泣いても泣いても…涙が出てくる

涙は…心の氷が溶けた証拠。




泣き止むまで…ずっとそのまま…。




「大丈夫か?」
嗚咽が大分落ち着いてたところで…真田がそう言った。
「……はい…。」
鼻をすすって…志乃は顔を上げた。
「兎みたいになってる。」
小さく笑って…真田は涙をぬぐった。
「ごめんなさい…」
「うん?」
「服…。」
今まで志乃が顔を埋めていたそこは涙でぐっしょり濡れていた。
「気にするなよ。」
真田は志乃の頭を撫でて笑ってみせた。
「でもよかった…。」
頭を撫でながら…真田はそう言った。
「?」
「…志乃は、俺のこと嫌いなんじゃないかって…少し思ってた。」
「…そんな…。」
「いろいろ…考えた。」
「……すみません。」
「志乃を責めてるんじゃないんだよ。」
志乃画謝ったので真田は慌てそう言った。
「たださ…。俺も、そんなに余裕があるわけじゃないってこと…わかって欲しいんだ。」
「余裕?」
「そ、…いろいろ…な。」
「いろいろって…?」
「…いろいろだよ。」
苦笑しながら真田はそう言った。
「…あたし…真田さんに無理してほしくありません。」
その言葉を聴いて真田はさらに苦笑を深めた。
そうしてぽんぽんっと頭を叩いた。
「無理してるわけじゃない。」
「………。」
そんな目で見ないでくれ。どうにかなりそうだ。
それをいえるわけはなく…真田はその感情を苦笑で覆い隠した。
「シャツ脱ぎたいから離れていいか?」
ベッドの外に投げ出した足の間に志乃が座っているため動けない。
「あ…はい。」
ベッドに手を付いて…真田の脚をまたいでその隣にちょこんと座った。
真田は立ち上がって…椅子に上に着ているシャツをかけた。
「なぁ…志乃?」
背を向けたままで真田はそう声をかけた。
「はい?」
「…理由は…傷だけか?」
中のTシャツを脱ぎ上のYシャツを再び羽織ながら真田は問うた。
「………。はい……。」
「…俺が、何言いたいか分かる?」
「…そのつもり、です。」
「?」
「…傷の事…話して…受け入れてくれたら今日は……」
それ以上の声が聞こえて来なかった。
ボタンを留めないまま振り返ると赤い顔をした志乃と目が合った。
「……………。」
「真田さん…。」
でも、志乃は目を逸らさなかった。まっすぐに見返してくる。
「…志乃。」
しないっと…思っていた信念がいま揺らぎそうだ。
もう何も…障害はない。何にもそれを拒まれる事はない。
それでも、本当にいいのかと…冷静な自分がいる。
「…真田さんは…ずっと…あたしの事…大事にしてくれました。」
「………。」
「だからあたしも…真田さんの事…大事にしたい…です」
「うん。そっか…。ありがと」
真田はそう言うとベッドに腰掛けて志乃に笑ってみせた。
ぎこちなく…志乃も微笑んだ。
微かに身体が強張っているのがわかる。
「…怖い?」
顔の横の髪に触れながらそう聞いた。
「…真田さんなら…平気です。」
「ほんとに?」
その髪を指に巻きつけて…唇をよせた。
「…………。」
それを少し困ったような顔で志乃は見ていた。
「本当…です。」
「……」
「そっか…。」
真田はそう言って…ゆっくり頬に唇を寄せた。
最初は触れるだけ、二度目はわざと音を立ててキスをした。
いい、香りがする…
香りに誘われるように頬から首に唇を落としていく
思わず…キスマークを刻んだ。
「っぅ…。」
小さい呻き声が聞こえた。
はっと我に帰って真田は顔を上げた。
「悪い…痛かったか?」
「い…え。」
瞳がさっきより潤んでいた。顔も赤い。
……たまんねぇ。
どうにか…したくなる。

衝動が抑えられない。

「志乃…。」

その細い肩を掴んでベッドに押し付けた。

上に男
下に女


いつぞやと同じ位置…。

それでも、今から何が起こるかは…2人とも同じ認識だ。
「真田…さん」
「ん?…」
「電気…消してくださいっ。」
「了解。…でも志乃…その前にさ…。」
「な…なんですか?」
「こういうコトは…ちゃんとしないとな。」
「?」
「…俺、志乃が好きだよ。だから…抱きたい。志乃が欲しいよ」
率直にそういわれて志乃の顔がますます赤くなった。 
「いい?」
真田はその頬を指で撫でながら…問うた。
「…はい。」
小さい声だったが確かに聞こえたその言葉…。
真田は一度、額に唇を押し当てて…


電気を消しに行くためにベッドから降りた………。



END


あれだけの惨事だった事故ですから…志乃の身体にも何かしらの傷があるんじゃないかと思って描きました。
もし原作でもそうだとしたら真田が全部受け入れてあげて欲しいと思います。



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