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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月19日 (Sun)
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2007年02月14日 (Wed)
初デート話、完結です。



会計を済ませ、2人は店を出た。
「そろそろ、いい時間だな。」
八雲が広場にある時計を見て、そうつぶやき。
「うん。そうだね」
隣に居る晴香がそう答えた。
八雲の表情が数秒のうちに微かに変化し……無言で晴香の左手の前に左手を差し出した。
「?」
「……持つぞ、荷物」
先ほどの数秒はどう言おうかという思案と、いつものような…皮肉が出てこない事への戸惑いの時間だったのだろう。
「ありがとう…でも…大丈夫だよ。」
笑いながら、晴香がそう言った。そうして、あの指輪を嵌めたままの指で袋の取っ手を握り締める。
「…遠慮はいらないぞ。」
「荷物より…こっち持ってて…」
そう、聞こえたかと思うときゅっと、指に何かが絡み付いてきた。
「…………。」
自分の手を目の前に引き上げると、晴香の右手もついてくる。
「…私、持ってて?」
遠慮がちに絡まった晴香の小指にぎゅっと力が入る。
今日、最大の赤面だろう晴香も…八雲も。
「…て、転倒防止ぐらいにはなってやる!」
そっぽを向いて、八雲がそういう。
「……うん。」
何度見ても、可愛らしいその満面の笑みを惜しげもなく八雲に向ける。
「いくぞ。」
ちらりと…横目でそれを見て、八雲はぶっきらぼうにそう言い歩き出した。
「うん。」
当分消えそうにない笑顔のまま、晴香は八雲の隣に並んだ。
「映画、楽しみだね。」
「…そうだな。」
「友達に、見た子が居るんだけど。すごく感動するんだって。」
「…ハンカチ持ってきただろうな?」
「もー。そんなの当たり前でしょ、身だしなみのうちだよ?」
「君は妙な事でぬけてるからな。」
横から見てもわかるぐらい八雲がにやりと笑う。
「もう!八雲君っ!」
怒ってはいるが当の八雲はどこ吹く風と笑い続けている。
そんな八雲を見て、少し膨れながらも柔和な笑顔を浮かべる晴香。
そのとき、微かに舌打ちが聞こえた。
「え?」
自分に向けられえた物だと思った晴香は驚いて八雲を見上げた…が、その視線はまったく別の方向を向いていた。
八雲の視線を眼で追った晴香は舌打ちの理由がわかった。進行方向、である左手の方向に見慣れた姿があったからだ。
後藤と、石井の刑事コンビだった。
八雲の舌打ちはデートを目撃されたからか、それとも事件に巻き込まれる予感がしたのか、それともただ単に逢いたくなかったのか…どれに対してなのかはわからないが酷く憎憎しげな舌打ちだった。
「あ!後藤さーん!」
晴香は声を上げて、反射的に軽い方の手…つまり右手を挙げた。当然、小指で繋がっている八雲の左手もあがる。
「おう。偶然だな」
少し、足取りの重くなった八雲を引っ張る形で晴香は2人に近づいていった。
「こんにちは、後藤さん、石井さん。」
2人のそばによってきた晴香はぺこりとお辞儀をした。
「熊がこんなところに出没するなんて、物騒な世の中になりましたね。」
対する八雲はいつもどおりの皮肉を飛ばす。先ほどまでの晴香に対する態度とは大違いだ。
「仲良くデートか?」
後藤が、ニヤニヤ笑いながらそう問うて来た。
八雲は何も言わずに無表情を装っているが、晴香にはそれが照れていると分っていた。
「えへへ」
そういう晴香はあからさまに肯定するのが恥ずかしかったのか…それでも満面の笑みを浮かべてそういった。
普段ならこの晴香の笑顔を見て満面の笑みになる石井が今日は表情が硬い。
「後藤さんこそ、こんな似つかわしくないところで何やってるんですか。」
そんな石井をちらりと見て…八雲がそう後藤に聞いた。
「仕事!見回中だ。」
お前らと違って!と後に続きそうな勢いで後藤がそういった。
「見回りって、どう見てもその格好じゃ警察には見えませんよ。」
上から下まで2人の格好を見て、八雲がそういう。彼が軽く鼻で笑った気がしたのはおそらく気のそうではない。
「ここってそんなに治安悪かったんですか?」
少し、不安げな表情になって晴香がそう尋ねた。晴香が微かに八雲に身を寄せたことに、刑事コンビは気づいていない。
「最近な。晴香ちゃんも気をつけろよ。」
後藤のその言葉にこくりと頷いて…。
「大丈夫です。八雲君と一緒ですから」
少し、はにかみながら…でもはっきりそう言った。今度は後藤の目にも分るぐらい、八雲が照れた。
「そろそろ、時間だぞ。いいのか?」
わざとらしく時計を探し、八雲が話を強引に変えた。照れ隠しだということはばればれ。
「あ、ホントだ。じゃぁ、いこ?」
八雲の心を知ってか知らずか…晴香がそう言う。
「あぁ。」
「お?どこに行くんだ?」
意外そうな表情を浮かべ後藤が興味津々と言わんばかりに聞いてきた。
「映画見に行くんです。ね?」
ね?の部分で八雲に同意を求めるように小首をかしげた。可愛らしい動作。
「そういうわけですから。」
2人そろって、刑事コンビに視線を向け歩き出した。
「おう。」
後藤がにかっと笑って2人を見送る。石井は結局、一言もしゃべらなかった。
八雲は石井が晴香に好意を寄せている事を知っていた。
丁度いい機会だ、さっさとあきらめてもらおう。
そう思いながら八雲は少し大きな声で言った。

「楽しみだな。『アガペー』」
「うん。楽しみ。」

これだけで、十分だろろう。
なんてったって、巷で話題の純愛映画…なのだから。

八雲は微かに笑いながら、晴香と絡めた指に力をこめた…


END

ちなみに映画のタイトルは適当です(爆)
アガペーはキリスト教でいう神からの無償の愛…のこと(たぶん)

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無題
SINです。

綾先生って物知りなんですね☆


綾先生にリクエストがあります酒が絡んだエロス系がみたいです!!
なんかわがままですみません
SIN 2007/02/14(Wed)09:54:06 編集
Re:無題

SINさんこんばんは!
やっぱり先生と呼ばれるのはこそばゆいですな(笑)
嬉し恥ずかしテレながらコメント読ませていただきました。
ぜんぜん物知りではないですよ(汗)
なんせ映画のタイトルなんにしようか迷ってウィキペディアにお世話になるぐらいですから(苦笑)
そしてリクエスト、ありがとうございます。
とりあえずバレンタインと引っ掛けて書いてみましたが…
エロスの波が来てないのとネタがないのでヌルイですな(苦笑)
いかんせん気分屋で……すみません(汗)
【2007/02/16 21:16】
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