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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月20日 (Mon)
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2006年04月30日 (Sun)

Cantabile ed Espressivo
様で借りてきました。『甘々な20のお題』

最初の消化は《19.その手を取って》です!



八雲と手を繋ぎたい。
そんな些細な欲望を晴香は抱いていた。
すれ違う恋人たちは大半が手を繋いでいる。
中には腕を組んでるカップルも居るが…そこまでする勇気はない。
人ごみの中では心配はしてくれるが手は繋いでくれない。
いつも私が離れないように八雲のシャツの裾を握るだけで。
八雲から離れないようにしてくれたことなんてない。
気分は一方的な片思い。

私達って…ちゃんと恋人同士に見えるのかな?

……見えないんだろうな…きっと。

自問自答をして…思わずため息をついた。

「なんだ、そんな大きなため息をついて。」
隣の八雲のそんな言葉で現実に引き戻される。
「あ、ううん。なんでもない。」
「ならちゃんと前を見て歩け、何もないところで転ぶ君が、こんな人ごみで転ばないわけがない」
確かに、日曜日の街は平日に比べて人が多い。その人ごみを掻い潜るようにして2人は歩いている。
「そう思うなら…手ぐらい握ってくれてもいいじゃない。」
言うつもりはなかったが、うっかり口から滑り出してしまった言葉。
慌てて八雲のほうを見るが聞こえなかったのか変わらぬ様子で歩き続ける。
こうもそっけないと、いっそのことわざと転んでやろうかとも思ったが、流石にそれは余りにも子供じみている。
駄目、駄目!
折角、八雲と一緒に出かけられるんだから楽しまなきゃ。
「ねぇ、これからどこに行く?」
「…なんだ。君が行きたい場所があるんだろう?」
「それはあるけど、私だけの予定で動いちゃ悪いでしょ?」
「君と出かけた時点で、振り回されるのは承知済みだ。」
いまさら何を言い出すんだ。と呟くのが聞こえる。
「じゃぁ…振り回されるついでに…1つお願いしていい?」
「オネガイ?」
ぴたっと八雲の足が止まってまた妙な事を言い出したな…という風に顔をしかめる。
「た、大したことじゃないの。ほら、今日って…人が多いじゃない?」
「そうだな。」
「だから、その…逸れないように…」
手を八雲の前に出す。分からないという顔をする八雲。
「……繋いで?」
言ってからかぁっと顔が赤くなるのが分かる。八雲は相変わらずの表情でその手を見つめている。
「それをさっきから考えてたのか?」
ため息とともに出てきたのはそんな言葉。
「だ、って…八雲君ぜんぜん握ってくれないし。今日はいつもより人多いし…。」
「お願いって言うから何事かと思ったら…こんなことか」
こんなこと呼ばわりされたのは少しむっとしたがそれをかき消すかのように八雲の手が触れた。
「こんなこと…頼むな。」
差し出された晴香の手をとって歩き出す。つられて晴香も足を進めた。
「大体、君は大げさすぎるんだ。お願いなんて言うから……」
「言うから?」
「……………」
八雲の顔が一瞬のうちに赤くなる。
え?なになに?
「八雲君?」
「……なんでもない。忘れてくれ」
顔を見せないようにそっぽを向いてそういう八雲
「…忘れてくれなんていわれて。忘れられるわけないでしょ?」
お返しとばかりにニヤリと笑ってそういう晴香。
「もう買い物に付き合わないぞ!」
「私に振り回されるのは承知済みじゃなかったの?」
黙り込んでしまう八雲。
久しぶりに晴香の勝ち。
「もういい。早く行くぞ。」
怒ったようにそう言うが手はさっきよりしっかりと握られている。
「うん。」
それに気づいて晴香も八雲をからかうのをやめた。
折角八雲から握ってくれたのだから、へそを曲げられると離されてしまう。
晴香も、八雲の手を握る手に力を入れる。
あぁ、そっか。これが手を繋ぐってこと。
一方的に“握る”んじゃ駄目、お互いにお互いが離れたくないと“握り合う”こと
それが…きっと“手を繋ぐ”って事。
やっぱり、言ってみてよかった。
「さっきから何をニヤニヤしてるんだ。」
「ニヤニヤなんてしない!」
「この状態で君がこけたら僕まで巻き添いになるんだから。ちゃんと前を見て歩いてくれ」
「そんなに頻繁に転んだりしませんよーだ!」
いつもと同じような会話。でもぜんぜん違うように感じる。
それは、きっと八雲と繋がっているから。


君の手をとって、未来へと歩いていこう。

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