ここは「文風月」内、FF置き場です.
カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
事件があれば当然立ち入り禁止等の措置が取られるが、この店は心霊現象でしか事件に関わっていないため、特に規制はもうけられてない。
「八雲さん。」
今まさに入ろうかという時、そんな声が聞こえた。勘違い、とくくるには的確すぎる呼び声。
八雲が振り向くと案の定…というか、知り合いの顔があった。
「よかった、やっぱりそうでしたね。」
少し微笑みながら歩み寄ってきたのは真琴だった。
「後藤さんに電話したらここに集合するって、おっしゃってたので…。」
「そうですか。…入りましょう。」
先ほどからこの店に入りたそうに、こちらに視線を送っているカップルがいた。
入り口で立ち止まってしまっているんだから邪魔なのは当然だ。
ドアを開けると乾いたドアベルが鳴り、二人を迎えた。
店内には心霊事件があったことなど知る由もないお客が2組、のんびり午後のティ-タイムを楽しんでいた。
ざっと店内を見回して一番奥のテーブルへ向かって歩いていく八雲。
「ご注文はお決まりですか?」
にこやかに笑ってウェイターがそう訊ねて来た。
「サンドイッチとアイスコーヒー」
前回来た時には居なかったウェイターだ、赤い目で騒がれたら本題に入れない。
八雲はそう瞬時に考え顔を少し左に向け右目だけ、そちらを向けて言った。
「私はコーヒーで。」
その向かいに座りながら言う真琴。
「いきなりで悪いけど、八雲さんが気になっていた事件、洗ってみたわ。」
本当にいきなり、八雲の目の前に束が置かれた。2センチあるかないか程の厚みの紙の束。
「私の会社のデータベースだから、新聞記事で取り上げたものが殆どだけど…」
「助かります。」
その束を怯みもせずに手元に引き寄せた八雲。
「それから、やっぱり加藤さんの事件は殆ど自殺だと書かれてました。」
加藤さん…とは例の日記の所有者で下の名前は瞳、享年27歳のである。
「その記事は…ありますか?」
「はい。」
真琴が鞄からその資料を出そうとしたときに注文したものが運ばれてきた。
「お待たせしました。サンドイッチとコーヒーとアイスコーヒーです。」
なんとなく出しづらくなってそのウェイターが去るまでそのままの体勢で固まる二人。
「そういえば、今日は晴香さんと一緒じゃないんですね。」
話はじめづらいのか、真琴がそんな事を聞いてきた。八雲の眉がピクリと動く。
ちなみに、八雲と晴香のカップルは本人達こそ知らないが公認のカップルである。
それに伴って…という言い方はおかしいかもしれないが真琴の恋も実を結んでいる。
「今から、あいつも来ますよ。」
サンドイッチを一口齧って真琴から差し出された資料を受け取る八雲。
「いい子ですよね。晴香さん」
「………。」
いきなりそんな事を言ってくる真琴の真意がつかめず探るような視線を向ける八雲
「あ、ごめんなさい。深い意味はないの。」
慌てて手を振る真琴。
「だた…いいなって思うんです。あんなにもまっすぐなんだもの。」
「…確かにあいつはイノシシ並みに猪突猛進ですよ。」
真琴は気づかないが晴香がこの場にいたら八雲の頬が微かに赤いのに気づいただろう。
片手に資料、片手にサンドイッチという状態の八雲の頬が。
八雲のイノシシ発言に苦笑しながら真琴が話し出す。
「素敵だなって思うんです。一途でまっすぐな晴香さんが。」
今度は真琴に目にも分かるぐらい表情が緩んだ。
「真琴さんも、素敵な人ですよ。自分の仕事に誇りを持てるんですから。」
もぐもぐと口を動かしながら…少々お行儀が悪いけれど、八雲が言った。平然と。
「…………。」
何事もなかったように資料に目を通し続ける八雲。
「ほんと。晴香さんが羨ましい。」
照れたような微笑で、真琴がそう呟いた。
「じゃぁ、私はこれで。」
暫くした後、そう言って真琴が立ち上がった。
「…どこか、用事ですか?」
「え?いいえ、そうじゃないんですけど…」
「なら、まだ居たらどうですか?どうせ石井さんたちも来るんです。」
石井さんたちというのはもちろん刑事コンビ二人のこと。後藤さんたちといわないあたりやっぱり八雲は八雲だ。
「……。」
「僕から説明するより、あなたから説明してくださった方がのクマは納得しますからね。時間があるなら、居てください。」
暫く、思考をめぐらせていた真琴がこんな質問をした。
「晴香さんやきもち妬きませんか?」
「え?」
「だから、私がここに居て晴香さんはやきもち妬きませんか?」
「…………。」
一瞬、八雲が黙ってそれから低くくっくっと笑った。
「八雲…さん?」
「そんな心配いりませんよ。やましい事をしてるわけじゃないんですから。」
「そう、ですか?」
「そうです。」
真琴は言われるままに再び腰を下ろしたが、八雲は暫く笑ったままだった。
「真琴さんこそ…石井さんがやきもち妬きますよ。」
ようやく笑い終わった八雲が発した第一声がこれだった。
「それはないです。あの人は、それほど私のこと…好きでもないですから。」
ほんの少し寂しそうな表情を浮かべる真琴。
と、それを打ち消すようにドアベルが鳴った。来客の合図。
「いらっしゃいませ。」
「八雲!」
聞きなれた声が店に響いた、この場所には合わない声。
「あ、後藤さん。石井さん。」
真琴が立ち上がって挨拶をする、八雲はそのままで資料をめくり続けている。
「おう、姉ちゃんの方が早かったか。」
「はい。」
「八雲、預かりもんだ」
後藤の手から机の上に置かれたものは見覚えがあるものだった。黒の表紙に金の刺繍でDIARYの文字。
「何で後藤さんがこれをもってるんですか?」
眉間に深い皺寄せて八雲が問うた。
「さっき、晴香ちゃんから渡された。」
「あいつにあったんですか?」
それで、少し機嫌がいいのね…。真琴は石井と話をしながらそんな事を思った。
「あぁ。なんでも用事ができたから、渡しておいてくれって…。」
八雲の皺が、一層深くなったのは言うまでもない。
そんな状態で、この日の捜査結果報告会が開かれた…。
続きます
次回から、修羅場かな(苦笑)
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