ここは「文風月」内、FF置き場です.
カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
マリンスノウ連続UPです(笑)
だってうちの子をちゃんと固有名詞で呼んであげたいから!(まて)
あとは、新栄と第八中学…。
3.二つの紅い光との出会い~3~
さり気に夫婦気味。八晴がね(笑)
描写してないところで何があったかなご想像にお任せします。
「…う…。く…」
頭を締め付けられるような痛みで、海堂瑠璃は目を覚ました。
身体の全ての血液が、まるで水銀に変わってしまったかの様に…重い。
身体を霊に呑まれそうになったこともあって、指一本動かすだけでも全身が引き裂かれるような激痛が走る。
この痛みだけは、どう足掻いても慣れない…。
意識が戻るにつれ、激しくなる痛みに顔をしかめながら、状況を把握しようと頭を動かした。
誰かが居たのは覚えている。男女が一人ずつ…。
どちらも見覚えのある顔だったが…思い出せない。
あれは誰だ…?
「起きたのか。」
男性の声に導かれるように瑠璃はそちらへ視線を向けた。
少し離れたソファーに声の主が座っていた。Yシャツにジーンズの長身の男性だ。
「起き上がるな、僕はここから動かない。」
そんなに睨んでいたつもりはないのだが…八雲は苦笑してそう言った。
「海堂、瑠璃であってるな?うちの壇家の。」
檀家…の言葉で思いだした。
両親の月命日の度に、いつも弥勒菩薩のような顔をして挨拶をしてくれた住職。
彼の家にこんな奴がいた…記憶がある。名前は…?
「斉藤…か?」
「斉藤八雲だ。」
その左目が普通の人とは違う事に…今更だが気がついた。さっき見た、紅い光の正体。
「…………。」
特別何も言わなかった。自分がこの容姿なのだから、別におかしい事はない。
「…生まれつきだ、気にするな」
瑠璃の心情を察したように八雲はそう言った。
「魘されていたから起こそうかと思ったが…あいつが寝かせてやれって…言ってたからな。」
あいつ…という言葉と同時に視線が動いた。その視線の向かったのは一つドア…。
「起きたなら…少しは水分を取ったほうがいい。」
顎でしゃくって枕もとのペットボトルをさした。
身体に力を入れるとぎしぎしと痛むが…水分を取ったほうがいいのは正論だった。
水分が欲しい、喉が張り付いてしまって上手く喋れない。
ゆっくり起き上がり、耳元のピアスが揺れた。その瞳と同じ青い石。
そこで、左手に包帯が巻かれていることと…腕時計がない事に気が付いた。
「…時計は…。」
急に聞こえてきた棘のある声に八雲は微かに目を見開いた。
「枕元、ペットボトルの隣においてある。」
視線を向けると言われたとおり…大事な腕時計がそこにあったほっとした。
レザーのリストバンドと、腕時計が合体したようなデザイン。
ほっと、息をついて…枕もとのペットボトルに手を延ばした。
未開封のそれは開けるのに時間がかかったが…何とか自力であけた。
「血がついていていから少し拭いたぞ」
コレが血で汚れるところは…見たくない。
「……。ありがとう。」
拭いてくれたことを素直に感謝した。
「それと、携帯に…着信があったぞ。」
そういうと丁度枕もとの携帯が着信を知らせるランプが光った。
「この部屋に来てすぐだ…ちなみにここは、小沢晴香の部屋だ…知ってるな?」
オザワ、ハルカ。
顔と名前と…映像が合致して、静かに頷いた
栗色のショートカットに、いかにも明るそうな女性。
でも、時折見せる悲しそうな表情の度に表れた、女の子の霊が瑠璃にとって印象的だった。
姉の綾香だというのは…本人から聞いた。今は…居ない。
瑠璃は枕元の携帯に手を伸ばした。
心当たりがあるとすれば…祖父とバイトの子だけ…だが返信を打つ気力もなければ電話をする体力もない。
急ぎの用ではないことを祈って携帯のダイアルロックを解除した。
メールの送信者の名前にはそのどちらでもない…意外な人物の名前があった。
【シオザキ】
あいつか…。
瑠璃はその名前を見て携帯を閉じて枕元に置いた。
急ぐ必要はない相手だった、むしろ理解できない相手に付き合う余裕はない。
あいつは、本当に分らない。考えれば余計…頭痛が増しそうでやめた。
「いいのか?」
「急ぎじゃない。」
そう言って行儀は悪いがそのままスポーツドリンクを喉に流し込んだ。
「…視えるのか?」
「…そう聞くって事は彼方もか。」
このやり取りで自分と同じという暗黙の了解が成り立った。
「君は学校で倒れていた、霊絡み…だな。」
「余計なお世話…だ。」
何故助けた…というニュアンスを感じて八雲は顔を顰めた。
「僕にそれを言うのは構わないけど、あいつには言うな。」
「………。」
八雲の鋭い視線を受けて…絶句した。殺気にも似たその思いが伝わっていた。
「あ、」
その空気を破るように女性の声が聞こえた。ドアが開く音とともに。
「海堂さん。大丈夫ですか?」
パジャマに身を包んだ晴香が先ほど八雲が視線を向けたドアから出てきた。
「小沢…さん。」
「晴香でいいよ?私も瑠璃って呼びたいし。」
「……………。」
名前は所詮記号だ。
彼女の笑顔の前で、それを否定することは…出来ずに…こくりと頷いた。
「…長い風呂だったな。」
八雲がそう言ってソファーから立ち上がり伸びた。
「はいはい。お待たせしましたどーぞ。」
苦笑しながらそう言って、八雲がそのドアに消えるのを見送った。
…何だこの会話は。
瑠璃は別の意味で頭が痛くなった。
2人が恋人同士なのはなんとなく分かった。言葉の端々に相手を思う気持ちが感じられる。
「ごめんね、ちょっと。手入れさせて。」
晴香はそういうとドレッサーの前に座った。
改めて部屋を見回すといかにも女の子らしいパステルカラーであふれた彩りだった。加えてこの空気。
…自分の部屋にはない雰囲気で…当てられそうだ。
「今日は遅いから、泊まっていってね。」
「!?」
冗談じゃないと思ったが…思いとは裏腹にズキンッと強い頭痛に襲われた。
「あ、瑠璃もお風呂は行った方がいいよね。」
「いい…」
「じゃぁ、着替えだけでも…ね?ずいぶん汗かいてるし。」
晴香はそういうと箪笥の中を探し始めた。好意を無駄にするのも気が引けて…瑠璃は何も言わなかった。
溜息を一つついて…顔を上げるとドレッサーの上に置かれた紅い石に目が行った。
レザーの紐いついているそれはよっぽど大切なものなのか、布の上に置かれていた。
八雲の瞳に似せた、赤い石。さっき見たもう一つの紅い光の正体。
「…………」
「あ、あった。」
そう言って口を閉ざした八雲の代わりに、ようやく晴香がパジャマを探し出して声を掛けた。
「はい、これ。…まだ使ってないパジャマだから。」
淡い水色…決して普段の瑠璃なら買わない色だ。
「ありがとう……。」
素直にそれを受け取ったが…すぐには着替える気にはなれなかった。
「あ、着替えるのはもうちょっと待ってね。…途中で八雲君が入ってきたら大変だから。」
晴香はそう言ってドレッサーに戻り、クリームを塗ってから、廊下に出た。
「着替えたら呼んでね。」
晴香はそういい残してドアを閉めた。
その後姿を見送りながら瑠璃は微かにため息を付いた。
時計を見ると…もう10時だ…。…晴香の性格から行っても帰るという意見は却下されるであろう時間だ。
瑠璃は、鞄の中から薬を取り出して…喉に流し込んだ。
今日はだめでも、明日には帰る。二日も世話になるなんてのは耐えられない。
痛む身体に顔を顰めつつ…服を着替えた。
途中からドアの向こうが騒がしくなって…更に頭痛が増した……。
「終わったよ。」
という言葉と共に瑠璃はベッドに倒れこんだ。
「もー信じられない!」
「信じられないのはそっちだろ。」
雰囲気に当てられそうで…瑠璃は目を閉じた。
「布団は一組あるけど…」
「テーブルを退けて、そこに引けばいいだろう?」
「一組だよ?」
「僕はソファーでいい。」
「う…ごめん…。」
「非常事態だろう。それに君をソファー寝かせたら確実に落ちる。」
「失礼ね。」
夫婦漫才を聞かされるのは…もういい。
翌日、朝だ…とわかったのは。嗅覚に感じる味噌汁のにおいで、だった。
いつだって眠りは浅く、時間の感覚はないといってもいい。
…そもそも、『あの日』から心地よい眠りなんて訪れては居ない。
ゆっくりと起き上がると腕時計が目に入った。5時ちょっとすぎ。
「あ、おはよう、瑠璃」
ドレッサーの前に居る晴香が声をかけた。
既にパジャマ姿ではなく…その胸元には昨日の赤い石が光っていた。
八雲の姿もなく…寝坊だと内心溜息をついた。
「……おはよう。」
「服は置いてあるよ。朝ご飯食べれそう?」
「…食欲がないから…いらない。」
瑠璃はそういうと起き上がった。そうして着替えを手元に引っ張り寄せた。
「おい、パンが焦げてるぞ。」
「え!?嘘!」
「頼むからちゃんと起きてくれ。君は寝ながら料理してたのか?」
「違います!」
「…………………。」
起きて早々夫婦漫才か。
2人がキッチンへ向かったのをみて、ドアに背を向けて瑠璃は素早く着替えを済ませた。
包帯の上から…腕時計をして、荷物をまとめた。
携帯電話に着信がないことを確認して…鞄に入れた
そうして立ち上がりキッチンへ向かった。八雲が気がついて目礼したからあわせて目礼した。
「…パジャマは…洗って返す。…袋か何かある…?」
「え?いいよ、気にしないで。」
パンのこげた部分をナイフでおとしている、晴香がそう言った。
「何してる。」
「…帰る。」
「…え?」
「ここに居ても迷惑なだけだし、お礼はまた改めてする。」
「ちょ、ちょっと待って!瑠璃、その身体で帰る気?フラフラじゃない。」
「心配ない。いつもの事だ」
「駄目!」
「…………。」
お節介、という言葉を飲み込んだ、八雲が睨んでいたから。
『僕にそれを言うのは構わないけど、あいつには言うな。』
昨日、そういわれたこともある…。
「…どうしても帰るの?」
「帰る…今日も、学校だ。」
「…なら、タクシー使って。歩いて帰るのは無理だよ。」
「……………………。」
「じゃなかったら、返しません。」
子供に諭すような口調で言われて内心苦笑いをした。
八雲に視線を向けると好きにしろといわんばかりに視線をそらされた。
そうして、味噌汁を次ぎ始めた。
「分った…。タクシーで帰る。」
そういうと瑠璃はタクシー会社の番号を調べて電話をした。
それから実際に家に着いたのは、6時を回ってからだった。
家に着いた安心感からか…ソファーに倒れこむように座った。
晴香の部屋とは対照的な自分の部屋。こっちの方が安心する。
私には、こっちの方がお似合いだ…。
目を覚ますと…熱は微熱程度にまで下がった。
「…学校、行かないと…な…。」
重い身体を起こした。…頭だけではなく、まだ身体も痛い。
だが学校を休んだところでそれが回復するとは思わない。
7時半…という時間を見てから…浴室に向かってシャワーを浴びた。
左手の包帯をガーゼだけに張り替えた。
「…目立つ…よな。」
言いたいヤツは好き勝手に言えばいい。が、質問責めに遭うのはごめんだ。
積極的に話しかけてくる奴は殆ど居ない。…あの変わり者を除いては。
相変わらず食欲は無いが薬は飲まなければならないので、スープを流し込んだ。
「行ってきます。」
玄関の両親の写真に声を掛けて、早目に家を出た。
…今日は一限からだ。
空は昨日の天気が嘘のように晴れ渡った青空だった。
「群青色の空…って、こういう空を言うんだろうね。」
「!」
大学について…掲示板に向かう途中にそう声をかけられた。
この声は知っている。唯一と言ってもいいかもしれない…覚えてしまった声。
「Good morning.ルリ。良かった逢えて。」
声のしたほうを見ると日本人らしからぬ容姿の男性が居た。金髪碧眼で喋る英語は日本人離れした綺麗な発音。
そして、昨日のメールの送信者。そういえば、メールの内容を確認していなかった。
「…随分、早い登校だな。」
瑠璃が皮肉交じりにそういうと、彼は肩をすくめて苦笑した。
「教授が今日から海外出張なんだ。その前に聞いておきたい事があってね。」
「ご苦労様。」
そっけなくそういうとその顔を心配そうに覗きこんできた。
「ルリ、体調悪いの?…今日もフラフラしてるし、顔色も良くない。」
睨むように彼を見ると苦笑を浮かべた。
「また辛い?」
「…関係ない、でしょう。」
「O.K.深入りはしない。でも、熱があるなら無理しちゃダメだよ。」
「…言われなくても分かってる」
「いい心構えだね…今からどこに行くの?」
「……何か用?」
会話を打ち切る棘のある視線と言葉に肩をすくめて苦笑した。
「Sorry.いちいち検索する事じゃないね。…体調悪いなら今度でいいよ。」
「そう。」
「うん。…今から朝食、食べに行くけど…」
「私はそこまで暇じゃない。」
次に来る台詞を呼んで瑠璃はそう言った。
「O.K.…無理しないでね。送って行けないのが残念だけど。」
「送ってもらおうなんて思ってない。」
瑠璃のその言葉に彼は肩をすくめてみせた。
「じゃぁね。」
軽く手を振って彼は大学の裏手へと向かって歩き出した。
染めた色ではないその綺麗な、金の髪を一瞥して瑠璃は歩き出した。
今年の春、出あっていままで…何度か会話をしているが未だに掴めない。
フランスの姉妹校からの特待生の留学だというのは本人から聞いた。
本人はれっきとした日本人だといってるが…その容姿からは納得されないことの方が多いらしい。
名前も影響してるんだろう…セイランなんて、日本人には居ない名前だ。
「へんな、ヤツだ。」
理解できる日は来ないだろうと、思いながら。彼の姿を頭の中から消した。
今日の一限は…必修だ。
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