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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月20日 (Mon)
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2007年04月16日 (Mon)
ここの更新は週一を目標に!しようかと(苦笑)
学校始まっちゃったんで、ご了承いただければと思います。




WEB拍手お返事

13日22時
ありがとうございます!
頻繁な更新はできませんが、これからも応援よろしくお願いします!




さてさて、いよいよ終わり。
starry-tales様からお借りした
【抱きしめる】5のお題
より
5.こうすれば何も見えない






酷い汗だった。相変わらず苦しそうな呼吸が聞こえてくる。
手で顔を覆うような格好で寝ている八雲の傍に、晴香はいた。
「八雲君…。」
呼びかけるが返事はない、静かな部屋の中で深い呼吸だけが聞こえてきた。
顔に当てている手を避けて額の汗をハンカチで拭う。
「…すまない…。」
晴香の手に顔に乗せていた手を重ねた。
ドキッとしてしまったのはその声と、向けられた視線のせいだろう。
「…もう、大丈夫だ。」
目を閉じた瞬間に目じりから涙が一筋流れ落ちた。そうしてゆっくり起き上がる
「や、八雲君!…いいよ、まだ寝てて。」
涙にも驚いたが、すぐ起き上がろうとする事の方に驚いた。
慌てて八雲を押さえて、再びベッドに寝かせる。
「いいから、ね?…辛いんでしょ?」
「…………。」
素直に晴香の言う事を聞いたところを見ると、やっぱりまだ辛いのだろう。
ふぅっと、息を吐いて再び目を閉じた。
「……大丈夫?…話せる…?」
「…大丈夫だ。…それにしても…君は心配しすぎだな。」
すこし、笑って八雲がそう言った。皮肉が出てくるだけの元気はまだない。
「心配するに決まってるでしょ!黙り込んだと思ったら、倒れるんだもん。」
笑われた事が面白くなかったのか少し膨れて晴香がそう言った。
「そうそう、その顔だ。…君に…心配そうな顔は似合わない…からな。」
クッと笑って八雲がそう言った。八雲は八雲なりに、晴香に心配をかけている事を気にしていた。
だが、晴香はそれに気づいていない。
「なによ。それ。」
プーっと膨れる晴香。折角心配したのに損した。といわんばかりだった。
今度は何も言わずにそれでいい、というようにゆっくり笑った。
「それで…理由ってなんなの?」
八雲の笑顔に少し安心したように晴香がそう問うた。
「ここが、どこだか分かってるだろ?」
「?…」
ここ、がどこを指しているのかイマイチ、ピンと来ない晴香。
「…半世紀と少し前…日本で唯一戦争を経験した…場所だ。ここは」
「…あ…」
思わず声が漏れた、そうして見る見るうちに晴香の顔が青ざめていく。
「八雲君…」
「……。実際に、その頃のは居ないよ。ただ、思いが思いを引き寄せてる。だから今も…っ」
いきなり八雲の口を晴香が塞いだ。もう言わないでと言いたげに強く…。
「…………?」
八雲が不思議そうな顔で晴香を見上げる。
「視なくていいよ!」
叫ぶようにそう言った晴香はそのまま、八雲を抱きしめた。八雲の頭を抱えるように…。
「もう…苦しまないで…。」
ぎゅうっと抱きしめる腕に力を込めた。
「っ…」
八雲の眉間に皺がよっている事を晴香は知らない。
「ごめんね…。私…何も考えてなくて…っ…。沖縄……考えれば……分かる…っ」
時々途切れる声。良く聞けばそれはしゃくりあげる声
「……泣いてる、のか?」
くぐもった声が聞こえてきた。もそもそと腕の中で動く八雲
「……。だって…」
「…僕の意思で、来たんだ。心配するな、もう大丈夫だから。」
そういいながら、晴香を離そうと腕を突っ張る。
「…八雲君…。」
それに抵抗せずにするりと離れる晴香の身体。
「…そんな顔するなよ。」
少し寂しそうな晴香の顔を見て、八雲がそう言った。
「心配するな。…約束は守る。」
「え?」
「…行きたいところには付き合ってやる。買い物でも…どこでも。」
寂しそうな晴香の顔をそれらが出来ないからだと思っていた八雲。
本当は、そうじゃない。八雲と離れるのが寂しかったから…だ。もちろんそれを八雲は知らない。
「…無理しなくていいよ…。」
頭を振って晴香がいう。
「無理じゃない。本当は、こんな事になる予定じゃなかったんだがな。」
はっきりと…次に苦笑しながら八雲が言った。
「心配かけたな…もっと、薄れてるかと思ったけど…やっぱりすこしキツイ。」
「…無理しなくていいよ。」
晴香がそう言ったときに、携帯電話が鳴り出した。
慌てて鞄の中から携帯電話を引っ張り出すと着信画面には美樹の文字
「もしもし?」
『もしもし?晴香?荷解き終わった?…今からぶらぶらしようと思うけどどうする?』
「あ…ごめん。パス。ちょっと疲れちゃったから…」
『そう、じゃぁ、自由行動ってことで。じゃね』
「うん。また後でね」
そう言って晴香は電話を切ったところに
「…いいのか……?」
そんな声が聞こえてきた。
「僕は大丈夫だぞ。」
そういいながら八雲は置き上がった。普通の人が見ればすっかりいつもとかわらぬ表情だが晴香は普通の人ではない。
押し殺している痛みを見逃さなかった。
「…ねぇ、八雲君?」
携帯を鞄に戻しながら八雲に話し掛ける。
「なんだ?」
「八雲君は、私の事どう思ってる?」
「どう…って」
晴香の質問の意図を掴みかねているのか不思議そうな表情を浮かべている。
「好き?」
そんな八雲がいるベッドに腰掛けて晴香はそう訊ねた。
「好きだ」
即座にそう帰ってくる。
言った後、ほんの少し八雲が照れたのを晴香は見逃さなかった。
「大切?」
「大切だ」
「大事?」
「大事だ」
鸚鵡返しのように言葉が帰ってくる。がいうたびに八雲の顔が確実に赤らんでいった。
「…私も八雲君が大好きで、大切で大事だよ?」
にっこり笑って、そう言う晴香。
八雲はやはり晴香の考えが分からないらしく渋い顔をしていた。すこし赤い頬で。
「だからね、八雲君…。八雲君が、私に合わせてくれるのはもちろん嬉しいよ。ありがとう」
「……いっただろ。君に振り回される覚悟は出来てるって。」
八雲がそう言うと晴香は珍しく怒るのではなく、笑った。
「でもね。そのために八雲君に無理して欲しくないの。」
その笑いをすぐに引っ込め真顔でそう話だす。
「…私も、八雲君が思ってる大事だから。ね?」
晴香が八雲の左手を両手で包み込んだ。まるで子どもを説得するように優しく。
「いきなりの旅行なのに、付き合ってくれてありがとう。…それだけで、もう充分…だよ。」
だから。辛いのを私のために無理しないで?ね?
…っとそんな事をあんな表情で言われて八雲が強い態度を取れるはずもなく…。
「分かった…。」
息を吐き出して、観念したようにそう言った。
「うん。」
本当は八雲が完全に納得していないのを晴香は知っていた。でも、今はそれだけで充分だった。
「……君は、その能天気な笑顔を振りまくのをすこしやめたらどうだ?さっきから笑ってばかりだ。」
「いいじゃない。笑う事って…素敵な事でしょ?」
再び満面の笑みで笑う晴香。
「………。」
かわりに八雲は少々渋い顔
「…?」
そんな八雲を不思議そうに見て小首を傾げる晴香。
「そんな顔、するな。」
八雲の口から飛び出てのはそんな言葉で…。
「へ?」
一体自分はどんな顔をしていたんだろう…と晴香が思っていると左手を包んでいた手を引かれて抱きしめられた。
「君は、自覚が足りないんだ。…自分が、どんな風に見えるのかもっと自覚しろ」
「…八雲君?」
顔を上げようとしたが頭を押さえつけられてしまってできなかった。
「……その笑顔が、どれだけ人の心を揺さぶるか…分かれよ。」
相変わらず、抽象的過ぎて八雲が何を言いたいのか晴香には分からなかった
「ね…どういうこと?分かるように言って?」
晴香がそういと今度は八雲が口を噤んでしまった。
「…八雲君?……。」
「…誰にも、他の誰にも見せたくない…ぐらい。…その、綺麗だ」
一瞬、晴香は耳を疑った。八雲がそんな事を言った事など、今までになかったのだから。
「だから…独り占めしたい…。それから…もっと別の表情まで…見たくなる。」
八雲の歯切れが悪いのは照れているからか…。
「…君の全てを独り占めしたくなる…。」
「………いいよ?独り占めして?」
くすっと笑って八雲の背中に腕を回す。
「…その代わり、八雲君は私が独り占めだから。」
ぎゅーっと、胸に抱きついて晴香がそう言った。
「馬鹿…そんな事言うと…。抱きたくなる…だろ。」
「へ?」
声が少し裏返った。
晴香が八雲を見上げるのが早かったか八雲が晴香を抱え込んで横たえるのが早かったか…。
上から唇を強く塞いだ後、八雲が晴香に言った。
「……我慢しろ…なんて殺生な事いうなよ。僕はこの部屋で…一晩耐える自信はない。」
「威張らないでよ…。」
微かに笑って晴香がそう言った。それにつられて八雲も微かに笑う。
そうして晴香の隣のベッドに身を沈めた。
「夜は…きっと今よりずっと視えるんだろうな…。」
誰に言うわけでもなくぼそりと八雲が呟く。
「…八雲君。…大丈夫、だよ?」
ゆっくり身体を起こして八雲を覗き込む晴香
「?」
「その…夜は…何も視なくていいよ…」
今度は晴香の歯切れが悪い。
「…どういうことだ?」
「だ、だから!…」
そう言うと赤い顔をして、八雲の耳に口を寄せた。
「私だけ見てて?夜の間中、ずっと。…全部、見せる…から」
びっくりしたのは八雲だった。積極的なお誘いなど今まで受けたことなどなかったのだから。
「あぁ…。」
驚きながらも、嬉しさのほうが大きかった。
「そうすれば君しか見えないな…。」



END


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無題

どうもこんにちは!

じゃなくて…!!
何これ!?何これ!?(何で二回)

ツボです!!(結局それか)


うん。晴香可愛いです笑
八雲が羨ましい。

素敵なお話を有難う御座いました!もう本当に…!!

これからも頑張って下さい。
志季 2007/04/16(Mon)18:44:43 編集
Re:無題
こんばんは~。ここではお久しぶりです。
ほんとにいろいろお世話になってます!えぇ、いろいろと(ニヤリ)

えっと、これはですね(笑)
ぐったり八雲と泣いてる晴ちゃんと。
八雲の頭を抱きしめる晴ちゃんと。(晴ちゃんは胸が当たってることに気づいてない←ここ重要・笑)
悶絶するぐらい可愛い事をいう晴ちゃんと。
八雲がいろいろ限界でその気になる
 のが書きたかった小説です(笑)

なので、晴香が可愛いと言っていただけで本望です!私も八雲が羨ましい(笑)

志季さんとはツボが一緒だと信じて疑っておりませんので(おい)
これからも満足していただけるものが書けると思います(笑)

更新は遅いですがよろしくお願いしますね!

【2007/04/21 21:22】
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