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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月19日 (Sun)
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2008年12月01日 (Mon)





今年もこの季節ですな。






今年の秋は短かったように思う。
去年とらべて…随分寒い、北風が足元の落ち葉を攫っていった。
北風から逃げるように人がせかせか行きかう道を…八雲はのんびり歩いていた。
両手で大事そうに花束を抱えて……

抱える…っといっても量としてはそんなに多いものではない。
小ぶりの花が包装紙から覗いている。白と黄色の…綺麗な花だ。
腕にはコンビニの袋をぶら下げている。

不意に眩しくなって八雲は目を細めた。
空には厚い雲が立ち込めているその隙間から差し込んでいた光だった。
それも一瞬で…。
風に流されて太陽はまた雲の向うへ隠れてしまった。
秋は日が落ちるのが早い…。


銀杏の木はその葉を落としてしまって…道が黄色に染まっていた。
この坂道の…そんな姿など見たことがなくて…一瞬別の所へきてしまったのかと思った。
それでも、その山門と…本堂は見覚えのあるもので…。

この場所だと…全身が言っている。

八雲はゆっくりその山門をくぐった。




斉藤家之墓の前にに見慣れない色があった

御影石の墓石の上にはっきり見える赤と…白。

近付いててようやく分った、花立に小さな花。
コスモスだった…。

庭の隅に咲いていたのを思い出して八雲はそちらに視線をやった。

去年と同じようにそこに咲いていた。赤と白、そしてピンク。

誰かがきたのだと想像がつく。

八雲は持ってきた花の包装紙を解いた。

白と黄色のキクを二つに分け、コスモスに添えるように花立へ添えた。

キクもコスモスも……同じ科だ。




1年前は2人でこの場所に立って居た。

でも今は…1人だ。


コンビニで買った線香を立てて八雲は手を合わせた。


ここにいないのは分かっている。

それでも、そうしたかった。


語る事は多すぎて、何から語ればいいのか分からない。

溜め込まずにこまめに報告に来ればいいのかもしれないが…

今日という日は特別な日だから…特別な思いで来たかった。







ポツッと…頬に何かが触れた。



手でぬぐってみると冷たい。

空を見上げると…いつもより空が明るい。
厚い雲が闇を覆っていたから…。


「雨…か。」

そういえば…天気予報でそんなことをいっていた…。

そんなことを思いながらまた墓石に向き合った。




まだ、話したいことの半分も話していない………。








「やっぱり…。」


はっきりと肌を打っていた雨が不意に止んだ。
頬がや鼻が冷たい……。


「風邪、引いちゃうよ」

聞きなれた、耳に心地よい声が聞こえてきた。

見なくても誰かは分る、去年一緒に墓参りをした相手。

パラパラと…雨音が頭の上から聞こえてくる。

「遅いから…心配してきちゃった」

頭にタオルが乗ってきた。

さほどぬれていないと思っていたのに身体を揺らすとぽたりと雫が落ちる。


もう、線香は消えていた………。


「八雲君?」


「ッ君、こそ…。」

自分で分るぐらい、声が震えて、擦れていた。

泣いていたのだと…それで分った。

顎の先からまたぽとりと雫が落ちる。

さっきの雫もそれだったのかと…思いながらコートの裾で目をぬぐった。

「身体を冷やすのはよくないだろ…。」

触れた晴香の身体が暖かくて一瞬驚く。

そうして、自分の手が随分冷えている事を痛感した。

雨にも濡れて…小刻みに震えている。

「うん。だから…」

その手を包み込むように晴香は両手で八雲の右手を握った。

「一緒に帰ろう?」

晴香は八雲を見上げて微笑んだ。

「あぁ……。」


一番報告したかったのは…。

自分も人の親になるというコト。

あなた達が与えてくれた愛情を、僕はその子に与えられるだろうか。

それを問いかけに来たかった。

いないけれど…
目の錯覚だとは分っているけれど…。

笑っている二人が見えた気がして、また視界がぼやけた。


「ありがとう、晴香」


不思議そうな表情で見上げてくる彼女の傘を持って八雲は歩き出した。
確りと手を繋いで。




来年は、きっと三人で……。




END


2年後ですから…ね。

恋人同士の愛は駆け引きがあるとしても…親の愛は無償の愛だとおもいます。
一心さんの愛情は当たり前だけれど、とても難しかった事だと思います。
親でもないのに無償の愛を与えてくれた先生。
そして、人を愛する事を教えてくれた晴香に感謝する日になってそうです。

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(泣)
とうとう、この季節ですね。。
もう、六巻を見たときは、悔し涙でタオルケットがぼろぼろでした。
今でも、六巻と外伝だけは読み返せません(泣)

そして、綾さん、ああたまで、泣かすのですか(←思いっきりなんか自分本位)

何か、八雲君が墓石に向かって泣いてるんだろうなとか思ってたときに既にうるうるだったのに、晴香さんが、来てくれた所で、もう涙が崩壊しました。←すみません、ワケわからんですね(汗)

所でこれを見てて、リクエストが決まりました。
八雲君と、晴香さんの子供達(勿論、奈緒ちゃんも)が、幸せそうな家庭をきずいてる所です!!
もう、その未来が見たくて見たくてたまりません!
特に、伯父さんが思い描いていたような、未来が。
すみません(汗)
難しい注文で(汗)

ただ、その未来はやはり親父殿は居ないのでしょうね。。
そして、あのある意味、お姉さん的な存在だった方も。
最近、私生活に追われて、積み本が増えており、八雲やコンダクターも読めない状態に(汗)
なので、そこら辺分からないのです。。

すみません、勝手なリクエストですが、綾さんが忙しく無いときにでも、書いてくださると嬉しいです。。
あと、私のブログに載せても宜しかったのですよね?
駄目だったらどないしよ。。
では、乱筆、長文失礼します。
クレーン 2008/12/10(Wed)22:43:46 編集
Re:(泣)



クレーンさん。

こんばんは!コメントありがとうございます。
あぁ、この季節がやってききました…。(っといいつつ年末に返信…すみません)
同じく、6巻と外伝は他の八雲に比べて綺麗です(苦笑)
…何年たっても、この日はしんみりしてしまいます。
発売日が12月1日なので勝手にこの日を命日にしています(苦笑)本当は秋なんですがね。
2年たってますのであまり泣かないようにと…しましたが。
やっぱり少し泣いてしまいました。

リクエストは了解です。楽しみながら書かせていただきますね♪
八雲と晴香と子供たちだけでなく一心さんも奈緒ちゃんも登場してもらう予定です。
ブログへの掲載は構いませんが…私が書いたことが分るようにお願いしますね
(まぁ、…斉藤家は私のオリキャラなので混同しないとは思いますが…)

御返事遅くなってしまってすみませんでした。
【2008/12/31 21:48】
ううう…(涙)
切なすぎる…。生きている内に言っておきたいこと…沢山あるのに、亡くなってから気付くことって多々ありますよね。

口下手だけど、「ありがとう」は沢山言っておきたい。

大切な人への感謝を込めた、たった五文字のシンプルな言葉。

だからこそ、想いもストレートに届くと信じて…。
哀(あい) 2008/12/02(Tue)18:55:08 編集
Re:ううう…(涙)
哀(あい)さん

12月1日は…6巻の発売日でしたので、私の中では命日です。
墓に布団はかけられぬってよく言ったと思います。
この日に書く八雲の心情はまさしくそうなので。
明美先生といい一心さんといい。
くれたものが大きすぎて…失ってからその大きさを痛感します。
晴香の大切さは…失う前に気付いてほしいですがね。

ありがとうって…乱用するととても軽くきこえるけれど。
とってもとっても大事な言葉ですよね。
【2008/12/08 22:08】
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