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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月20日 (Mon)
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2008年04月03日 (Thu)



このシリーズ、名前決めたいなぁ…と思いつつ。
いいのが思いつかない。

「雨」は入れたいレインでもいいけど…。


タイトル:雨夜の星

これを読む前に、未読の方は一つ前の記事からお読みくださいませ。




神は私を見捨てた。

でも

あの人にはまだ、見捨てられていない…。

私が生きる理由は、それだけで充分。


神になんてとっくの昔に見放されている。

あの人のためになら……。

喜んで悪魔に魂を売り渡すわ。


頬に滴り落ちる冷たい雨。

ジンジンと痛む手足。

それは私がまだ生きているという証拠。

まだ、あの人のために働けるという証拠。

あの人は、私にチャンスをくれた…。

その思いを、無駄にするわけには行かない。


どれぐらい、そうしていたのか分からない。

体は完全に冷えてしまった。


でも、私はまだ死ぬわけには行かない。

まだ死ねない。


あの人を生かすために…

あの人の願いをかなえるために…。


あの子の人格を殺すまでは

死ねない。



そのとき、急に辺り一面がまぶしくなった。
響き渡る、クラクションの音。車は既に目前に迫っていた。
美雪は重い身体を動かし、道の脇に避けようとする。しかし、左足に激痛が走る。
「...っ」
動かせない。訪れる、衝撃。意識が遠のいていった。



 漆黒のベンツが走っている。
周囲の自動車は関わるべきではないという何かを察して、黙ってそれを避けて通る。
彼らの予想通り、そのベンツには日の当たる世界では生きられない、闇の人間たちが乗っていた。
「こう雨がざあざあ降ってると、なーんにも見えやしねえ。」
運転手がぼやいた。二本のワイパーがせわしなく窓ガラス上を動いているのだが、水滴は拭った側から吹き付けるので、全く役に立っていない。
「俺は雨は嫌いだよ。二代目はどうです?」
さっきからずっと黙ったままの、後ろの席の男に声をかける。彼は口元に笑みを浮かべ、答えた。
「俺はそんなに嫌いではないよ。名字にも名前にも、雨に関係する字が入っているからな。」
そういや、そうだった。
運転手は再び曇りきった窓ガラスの向こうを見る事に集中する。と、彼の目に、人影らしきものが飛び込んできた。
「危ない...!」
そう叫ぶと同時に、クラクションを鳴らし、ブレーキを踏む。
しかし間に合わず、車全体に鈍い衝撃が走った。キキーッと鼓膜に悪い音を立てて、車は止まった。
「バカヤロー何やってんだ!」
運転手は飛び出す。そこには、長い髪の美しい女が倒れていた。
しかし彼女はびしょぬれで、今しがた車に撥ねられた事を差し引いても、酷い怪我を全身に負っていた。
「二代目、どうします?このまま...」
車の中にいる男に指示を仰ぐと、彼はこう言った。
「見つかると面倒だ。連れて行け。」
運転手はこのまま放っておきますか、と言いたかったのだが。
それでも二代目の言う事には逆らえないし、成る程この女を連れて行ってしまった方が、警察と関わる事にならなくて済むのだ。
彼は渾身の力で女の身体を引っ張り上げ、車の中へと押し込んだ。すると、彼女がまだ呼吸をしているのが感じ取れた。
運転手はドアを力一杯閉め、車を発進させる。後には、雨がアスファルトをたたく音が響くだけだった...。



「急げ。組長にどやされるぞ」
四度目の信号に引っ掛かった時だった。
後部座席で相変わらず外を暗い窓ガラスごしに眺めている二代目と呼ばれた男性がそう声を発した。
「わかりました。」
運転手はそう返事をしてアクセルを踏み込こむ。
彼は先程助手席に押し込んだ女性を横目でちらりと見た。乗せたのはいいが今後どうすればいいかを考えていたからだ。
さっき見たときと同じ息はしている。年は二代目と同じぐらいか…。
「安全運転で頼むぜ。若衆長」
びくりとして慌て前を向いた。
今日は雨とはいえ、この道はもう一般の人間は近づこうとはしない廃墟だ。その安心感にグサリと釘を刺された。
「すみません。二代目。」
若衆長と呼ばれては、きちんとするしかない。
小さい頃…本当に生まれる前から知ってる相手ではあるが、この世界ではそんなことは関係ない。
絶対的な上下関係で縛られている。この世界ではそれがあたりまえ。

廃墟の一角へ車を止めた。
雨はまだ降りつついているが、カサなんて気のきいたものはない。
だが、かまわず後部座席のドアを開けたその男性。
「二代目…」
「ここにいてくれ、どうせすぐ帰ってくるんだから。」
ふっと、口元に笑みを湛えてそう言った。
「分かりました。」
そういいながらエンジンを切った。

その建物の一室にいかにも如何わしい集団がいた。
三人対三人が古びた机を挟んでいる。机の上には段ボールがのっている。
「中国製とロシア製がそれぞれ10丁。トカレフで。」
そういいながら、段ボールの蓋を開け、中身を見せる。
「たしかに。」
中身を確認して蓋を閉める相手の男性。
「じゃあ、商談ということで…」
最初の男性がにやりと笑いながらそういう。
「組長。遅くなりました。」
ドアの無いその部屋…倉庫と言う方が正しいだろうと思うような場所に、声が響いた。
「早霧。」
受け取った側の中央に陣取っている男性が彼の名前を呼んだ。
「遅くなりました。組長。」
少し雨でぬれた髪を掻き揚げて、歩み寄ってくる。
「どちら様で?」
相手方の中央にいる男性が遠慮の無い視線をその男性、早霧に向ける。
「五十嵐組の二代目だ。」
「ほぅ、ご子息ですか。お若いですな。」
「次回から、これが取引にくるから、顔を覚えて欲しいと思ってな。」
そこまで言っていったん言葉を切る
「言っておくが、甘く見ないほうがいいぞ、こいつはチャカの善し悪しには煩いからな」
「はいはい。わかってます。今後ともよろしゅう。」
どこか爬虫類にも似た笑みを浮かべて取引は終わった。


先に来ていた組長の車を見送ってから、早霧は車に向かって歩きだした。
「どうぞ、二代目。」
運転手の男性が雨の中車から出てきて、後部座席のドアを開ける。
「悪いな。」
そう言って雨から逃れるように身体を車の中に滑り込ませた。
「…………。まだ生きてるのか。見上げた根性だな」
車に乗り込んだきたとたん、早霧がそう口を開いた。
視線は助手席の美雪に注がれている。
髪は雨と、おそらく血で濡れており服は泥やら血やらでどろどろである。
早霧が気が付いたときには、美雪は目を開いていた。
「…………。」
微かにしか見えなかったがその目には、狂いそうなほどの炎が踊っていた。
早霧が見た、どの裏の人間の目より殺気を持った目だった。
驚きで目を見開いてる間に再び目蓋は閉じられていた。
「二代目、この女。どうします?…」
彼の問いに、少し返事が遅れた。
「………。殺す…までもない、だろ。後始末が面倒だ。」
「これから、どうします?」
その言葉には二種の意味がこめられていた。この女をどうするのか、とこれからどこに行くのか。
早霧はその両方の答えを持っていた。
「伶んとこに行ってくれ」
「伶と…いうと……あの病院の?」
「そうだ。出せ。」
言葉と共に車が走り出す。
運転席でなにかを言いたそうにしていたが早霧はそれを無視して、再び窓の外へ目をやった。
雨はまだ、止みそうにない。



続く

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