忍者ブログ
2024.05│ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月19日 (Sun)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2006年04月23日 (Sun)
「大事なのはどこに行くかじゃないの…」 の続きです。

ブログを立ち上げたからには、バリバリ書いて行かないとね!!





「はい。お茶」
「…熱い」
バスケットを広げてのランチタイム。天気がよく本当に気持ちいい。
「あ、八雲君って猫舌?」
質問に答えずにお茶を置いておにぎりを口に運ぶ八雲。
「おいしい?」
「君は不味いと分かっているものを弁当に入れるのか?」
「そうじゃない!」
もう、どうして素直においしいって言ってくれないの?

それとも…口に合わないかな?

そんな心配をよそに八雲の箸は動く。
「…ボーっとしてるとなくなるぞ。」
から揚げをぱくっと口に放り込んで晴香にそういう。
誰のせいだと思ってるの?と言おうとしたがその前に何かが突きつけられる。から揚げ…だった。
「最後の1個だ…食べるか?」
っと八雲が訊ねる。
「さ、最後?もうそんなに食べちゃったの?」
「君は何を聞いていた?なくなるぞと言っただろう?食べるのか?食べないのか?」
「た、食べるわよ!」
そういうとそのから揚げを食べた。
「…早く食べろ。君はただでさえ食べるのが遅いんだ。」
そういうと煮物の人参を摘んで口に運んだ。
「言われなくてもそうします!!」
そういい自分の箸を持つ晴香。
あれ?……自分の箸?
「あ…」
さっき食べたから揚げは…八雲の箸からだったんだ。思わず赤くなる。
それにつられて八雲も分かったのか、少し頬を染めた。
「一回しか言わないぞ。」
「え?」
「おいしかった。ご馳走様」
八雲の口からその言葉が聴けたことがたまらなく、嬉しかった。
「お粗末さまです。」
少し照れている八雲に満面の笑みでそう返した。


人通りもまばらな午後、静かなゆったりとした時間が流れている。
食事が終わってから八雲は目を閉じて横になってしまった。
「八雲君。寝ちゃった?」
返事なし。ま、はなから返事は期待していないけど。
それにしても…ほんとに気持ちよさそうに寝てるなー。
「こんなとこで寝るなんて無防備すぎだよ?」
手を伸ばして寝癖だらけの髪の毛にそっと触れる。意外に柔らかい髪質。
…起きるかな?…と思ったがその気配はない。
「疲れてるのかな…?」
八雲だって私の知らないところでいろいろ忙しいのかも…。
そうだったら、強引に連れてきたりして悪かったかな?
「ありがとう。」
面と面とを向かい合わせてはなかなかいえないこの台詞。そう考えると私も素直じゃないのかも…。
「ほんとはね。お花見なんてしなくてもよかったの。ただ、八雲君と一緒にご飯が食べたかっただけ。」
って…これを寝ている八雲にしかいえない自分が少し悔しい。
起きたところでいえば皮肉が返ってくるのは百も承知だけど…。自分の気持ちはやっぱり相手に知ってもらいたい。
「ありがとう、八雲君」
耳元に顔を近づけて小さい声でささやいた。
寝てるんだから…いいよね。そのまま、そっと頬にキスをした。
「八雲君、大好き。」
午後の日差しは暖かく2人を包んでいる。


まったく……
「……無防備なのはどっちだよ…。」
若干、顔が赤い八雲。
思わず口に出た言葉。上半身を起こすとずるずると太ももに頭が落ちる。が起きない。
「こんなところで本当に寝るやつがいるとはな…」
仮にもここは外で、少ないとはいえ人通りがある場所なんだぞ?そんな場所で寝るのか?
「…無防備にも程がある…」
仮にも女で、それなりに容姿は…いい。
寝顔は……可愛い。
が、それをこいつは自覚してない。
僕のことには敏感なくせにそういうことに関してはまったく自覚がない。
自分が男に襲われるなどという考えはこいつの頭の中にないんだろう。
「………………。」
じっと足に乗っている晴香の頭を見つめる。
別に…なくてもいいか。僕がいるところではそんなことさせはしない。
髪の毛をゆっくり撫でる。さっきの僕の狸寝入りとは違う、本当に寝てる。

やっぱり無防備すぎる!

「いったい君は。…僕を何だと思ってるんだ?」ため息とともに出てきた台詞
僕自身は君を。何だと思っている?
……一応恋人同士だと自覚はしてるが…。
この状態で何もしないほど僕の理性はいい子じゃない。
そもそも、やってきたのはそっちが先なんだ。文句を言われる筋合いはない。
完全に開き直っている八雲だが、いざ行動に移そうとすると…
たわない。
身体を曲げても眠っている晴香には到底届きそうにない。
結局、数分試行錯誤をしていたがついに諦めたのか、再び横になった。


「んっ…」
「やっと起きたか?」
「ぇ?」
驚いて顔を上げる晴香。
「や、八雲君。起きてたの?」
「こんな環境で熟睡できる人間の神経を疑うね。僕は」
目を閉じたままそういう八雲。
「や、八雲君だって寝てたじゃない。」
「あれはうたた寝だ」
そういうとむっくり起き上がる。
「う、うたた寝って…」
「君の独り言は何も聞いてない。安心しろ。」
ばっちり聞いてるじゃないの!
「八雲君…」
「君に礼を言われるなんてな。」
苦虫を噛み潰したような顔をして立ち上がる八雲。
「行くぞ」
「え?どこに?」
「菜の花畑」
スッとその方向を指し立ち上がる
「何しにいくの?」
「…君に説明するだけ時間の無駄だ。」
そういうとバスケットを持って歩き出す。
「もう、待ってよ!」
慌てて立ち上がって八雲の後に続く晴香。


菜の花は意外に大きかった。晴香の腰位までは優に隠れる。
畑の中に向かって八雲が歩き出す
「八雲君どこ行くの?」
「ちゃんと道がある。」
それだけ言うと、どんどん歩いていってしまう。
「ちょ。ちょっと待ってよ!」
追いかけていくといきなり八雲が足を止める。当然…。
八雲の背中にぶつかってしりもちをついてしまう。
「もう、止まるなら。止まるって言ってよ。」
恨めしそうに八雲を見上げる晴香。
「大丈夫か?」
そういい八雲もしゃがみ込む。珍しく、皮肉が返ってこない
「…大丈夫だけど。」
「そうか。」
そういうとグイッと引き寄せられる。

え?…え??

いきなりのことにドキッとする晴香。
「ここなら、誰にも見られない。」

ぶっきらぼうに八雲が小さい声でそう言った。

あぁ、そういうことか。

「八雲君。」


「目、閉じろ。」

背の高い菜の花畑の中では2人の姿を見ることは不可能だった。



久しぶりの八雲の感触に…嬉しくて八雲の胸に顔を埋める。
「悪かったな。」
ぎゅっと晴香を抱きしめて八雲がそういう。
「え?」
いきなりの謝罪
「……君は、桜を見に行きたかったんだろう?」
「なにいってるの?」
そんな事を心配していたのか…八雲は。
「独り言聞いたんでしょ?花見なんてしなくてもよかったの!」
少し渋っている八雲。私の事を考えてくれたのは嬉しいけど、ほんとに花見じゃなくてもよかった。
「どこに行くかじゃなくて、誰と行くかが大事なの…そんなことも分からないの?」
八雲を見上げて怒ったような口調で言ってみる。
「八雲君と一緒なら、どこだって楽しいのよ?」
言った後で急に恥ずかしくなったのか赤面する晴香。
「変な、理屈だな。」
八雲が晴香の顔を覗き込み笑った。
「本当のことだからいいの!」
真っ赤な顔を見せないように八雲の視線から逃げるように再び胸に顔を埋めた。
「……夕食は…家で食べる?」
「そうだな…食あたりにならないものが出るんなら行ってもいい。」
「分かった。食あたりにならないもの作るから…何が食べたい?」
少しの沈黙……。
「八雲君?」
「…君に任せる。」
晴香からは見えないが八雲の顔は赤くなっていた。
何を想像していたのかは、彼にしかわからない。
「そ、そろそろ帰るぞ。」
そういうと晴香を立たせる。
「そうだね。もう夕方だし」
もと来た道を歩き出す2人。
菜の花畑を抜け、昼寝をした場所を通り越す。
「あ…」
ふと晴香が立ち止まる。
「…どうした?」
「綺麗…」
晴香の視線の先に八雲も目を向ける。
夕日に照らされた菜の花畑がそこにあった。
菜の花の黄色と夕日の緋色。それを見ている晴香の顔も夕日を受けて橙色。
彼女には温暖系の色が似合う気がするのは…何故だろう。
それはきっと

「君は僕の…陽だまりだ。」

「え?何か言った?」
「もう幻聴が聞こえるようになったのか?」
「何よそれ!!」
「僕は君と違ってちゃんと耳は聞こえる。そんなにでかい声を出さないでくれ。」
「私だってちゃんと聞こえます!!」

どんな言葉を交わしていても…


君と過ごす時間は、暖かい。


END
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
←No.9No.8No.7No.5No.4No.3No.387No.389No.386No.385No.384
ブログ内検索