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ここは「文風月」内、FF置き場です. カテゴリに作品名が入っていないものは「八雲」
2024年05月19日 (Sun)
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2007年12月01日 (Sat)

12月1日です。


一周忌…です。




6巻後



秋とはいえ、連日残暑が厳しい日々が続いていた。だがそれも日中の話。
黄昏時となれば…太陽の力は衰え北風が容赦なく肌を刺す。
そんな時間にもかかわらず…。
墓地に二つの人影があった。
一人は1年前から露にしている左右違う色の瞳を持つ男性で…
一人は彼のとなりに…寄り添うように立っている女性だった。

2人が立っている墓石に刻まれているのは斉藤家之墓の文字。

他でもない、八雲と晴香が…立って居た。

しめやかに一周忌法要を終え…後は2人が帰るだけ…っという状態だった。

喪主は八雲が勤めたのは言うまでもない。



墓の周りは綺麗に掃除され、白と黄色の菊の花が供えられている。

そうして、短くなった線香が燃え残っている。


どれだけ、そうしていたんだろう。

もう、線香の香りは風によって遠くへ流れていってしまった。

言葉を発しなければ辺りは静寂に包まれる。

葉が落ちた木の枝が、風の愛撫に悲しげに泣いている以外は……。


八雲の身体が、ふっと動いた。


墓石の横にある墓誌の前へ歩み寄る…。

晴香は何も言わずにじっと、その様子を見ていた。


墓石と墓誌の狭いスペースに座り込み…八雲はその冷たい名前を指でなぞった。

斉藤一心

 一番新しく彫られた名前。

斉藤梓
武田俊介

 やっと同じ場所に眠る事ができる二人。

斉藤明美

 一度もその名前を呼ばないまま…。早すぎる…死。


八雲は「斉藤」の文字を何度か撫でて…来た道を引き返した。


今八雲は、何を考えてるんだろう。

八雲の後ろ姿を見ながら晴香はそう思った。

見慣れないスーツ姿で…でも、その髪の毛は相変わらずはね放題。

そのアンバランスさが…なんだか不安を掻き立てた。

いつの間にか、八雲は項垂れていた。

「…八雲君…。」

思わず声が出てしまっていた。

いままでは、邪魔にならないようにっと…黙っていたのだが…。

「大丈夫?…」

声に出してしまったら、言いようもない不安は膨らむばかり。

触れていないと…怖かった。

しゃがみこんでいる八雲の肩に手を…置いた。

「平気だ…分かってるから。」

八雲はそう言って…その手に自分の手を重ねた。

「大事なのは…何を残してくれたか…」

手を離さないまま…八雲は立ち上がり

「その人から、何を学んだか…だ」

話しながらも手は離さず…再び墓石の前に立つ。

「もう、泣く時期じゃない…からな。」

まっすぐに斉藤家之墓の文字を見る。

「僕の時間は進んでるんだから……。」

晴香から見える赤い瞳にもう涙の膜はない。

「半分も…受け取ってない気がする…けど…。メッセージ」

八雲は微かに苦笑しながら…そう言った。

「大丈夫だから…ゆっくり休んでくれ。」

「…叔父さん…先生…。母さん……。父、さん」

握られた手に力が入ったのが分かった。

その手を晴香は…もう片方の手でゆっくり包み込んだ。

八雲が驚いたように晴香を見やるが…晴香は黙って静かに微笑んでいるだけ。

だったが…。

「くしゅっ!」

スーツ姿は晴香も一緒で…ストッキングに包まれた足は容赦なく風に曝されている。

太陽も…もう沈んでいく…。

「寒いのか?」

「ううん…平気。」

頭を振って笑ってそう言って見せるが、八雲は納得しなかったらしい。

自分の上着を脱いで晴香の肩に掛ける。

「あ…」

ありがとう…を言うより早く、

八雲のきつい抱擁で息が出来なくなった。

「や、く…っ!苦しいっ。」

「晴香。」

後ろから抱きしめた八雲は…晴香の耳元でその名を呼んだ。

「……八雲、君?」

その声があまりにも寂しく…か細く…それでいて甘美な響で…
晴香はどうしていいのか戸惑った。


「……君は、僕が守る。」


「だから……」


「僕の前から…消えないで…くれ。」


消え入りそうな声
きっと耳元で言われなければ聞き取れないであろう、それぐらいの…





「……消えないよ。」

身体に回っている八雲の腕をそっと撫でて…ゆっくり離させる。

「どこにも行かない。」

そうして、緩くなった八雲の腕の中でぐるりと身体を回転させて…八雲と向き合った。

「八雲君が…辛いときに手が届く場所にいるから…。」

少し高い位置にある八雲の頭を…

両手を伸ばして抱え込んだ。


そうして、肩に押し付けるようにして…頭を抱きしめる。



太陽はすでに退場し…街灯のない墓地は確実に夕闇が支配下に治めはじめている。

それに比例するかのように…寒さも勢力を伸ばしだし…

太陽の恩恵を奪っていった。


それでも2人は長い間そこにいた。

2人一緒なら…寒くない。

2人一緒なら…怖くない。


END
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コメント
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切ないですね。
一心さんは、個人的に凄く好きな人だったので、切ないですね。
八雲氏には、晴香さんとこれからの人生を生き抜いて欲しいです。
一巻に、一心さんが言っていた、八つの雲の残りを、恐らく7巻以降で取り払っていくのでしょうが、それがどんなに辛いものでも、乗り越えて欲しいです。
別冊花とゆめに、神永さんがインタビューで仰っていた、‘赦す’ことが、これからのテーマとの事でしたので、親父殿の事も、赦す事が出来るようになるのでしょうかね。
いや、これは、私の勝手な妄想ですね。
乱文失礼しました。
クレーン 2007/12/06(Thu)04:33:02 編集
Re:切ないですね。
クレーンさん、こんにちは。レス溜めててすみません(汗)

もう好き過ぎです。一心さん。どれぐらいかは昨年の私を見ていただければ分かるかと(苦笑)
自分としては振り返りたくない過去ですが…。
“赦す”事それが唯一憎しみの鎖の連鎖を断ち切る事だと思います。
一心さんが切ってくれた鎖の一部、最終的に断ち切るのは他でもない八雲の仕事です。
それには…“赤い目を持って生まれたこと”を恨むより“どんな形であれ生まれてきたこと”を
幸せに思える事が大事なのかな…っと思っています。
晴香が…それを分からせる存在になればいい。
「…生まれてきて、君に会えてよかった」
なんて…原作の八雲が言う日が来ればいい…っと仄かな期待を抱いてます。

コメントありがとうございました!
【2007/12/09 14:23】
切ないけど前向きな話
たくさんの優しさと愛を遺して逝かれた方たちの墓前での2人。
いつかは2人の子供も一緒に逢いに来れることを願ってしまいますよ。
八雲はちゃんと大切な人たちから学んだことを活かして精一杯に生きて欲しいですね。
悦子 2007/12/02(Sun)19:24:10 編集
Re:切ないけど前向きな話
悦子さん。こんばんは!
コメントありがとうございます。

私にとって特別な日ですのでどうしても書きたかった話です。
この人たちが残してくれたメッセージはきっと八雲の人生に大きな影響を与え続けるとおもいます。
もちろん、私達にも。

弔い上げまでに…にぎやかなお墓参りが実現するのもいいですね。
っというか…八晴スキーっとしては3回忌以内には……(笑)

残してくれたメッセージをまた伝える事も…大切な事だと思います。
家族で墓参りのあとは…父親になった八雲から子ども達にいろいろ話をして欲しいですね。

切ないけれど、前向きに八雲も晴香も生きて欲しいです。

とりあえず7巻が楽しみです(笑)
【2007/12/02 21:21】
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